第15章 豆撒きと刀
傷薬を自分に使用しなかった風音は予備の木刀を補充しに元来た道を戻っていた……血を顔から滴らせながら。
「さっそく予備の木刀がなくなった。まだ皆さんのは無事なのに。やっぱり柱の方たちはすごいなぁ」
柱たちの実力に感嘆の声を上げるだけで血を拭うことすらしていないところを見ると、怪我のことはすっかり頭から抜け落ちているようだ。
「……あれ?師範が同じ場所に向かってる?木刀は無事なはずなのにどうしてだろ?怪我……もしてなかったはず」
頭に流れてくる実弥の姿に首を傾げながら進んでいくとやはり実弥が別方向から姿を現し、風音が声を掛ける前に片腕で抱え上げて目的地へと到着した。
「師範の木刀は……やっぱり無事だ。どうしたんですか?一見すると怪我もなさそうですけど」
抱え上げられたまま急々と実弥の体を見回すも怪我らしい怪我どころか泥汚れ一つない今の状況を不思議に思っていたところ、地面に優しく下ろされ額にふわふわした柔らかな物があてがわれた。
「何でその状態で俺の木刀の心配してんだよ。額、折れた木刀で傷出来てんじゃねェかァ……胡蝶に怪我に注意しろって言われてすぐに……ったく」
柔らかな物は手拭いだったらしく、額から流れ出ていた血を実弥が慎重に拭い取ってくれている。
傷の存在を忘れていたものの思い出したら痛みを伴うもので、優しい力で拭ってくれていることが嬉しく笑顔が零れた。
「ありがとうございます。すっかり怪我の存在を忘れていました。……あれ?どうして折れた木刀でついた傷だって知ってるんですか?見えないからどんな傷か分からないけれど、折れた木刀が原因でついた傷って断定出来ないものですよね?」
「……頭ん中に流れ込んできた。そりゃあもう折れるとこから額にぶち当たるとこまで一部始終。一瞬気が削がれて近くにいた剣士の先を流しちまったんじゃねェか?」
会話を続けながらも実弥の手は止まることなく、あれよあれよと言う間に額の傷の処置が完了したのだが……今度は風音の顔に冷や汗が伝い始める。
「え……それは胡蝶さんにも……流れたってことですか?」
「……そこまで俺には分かんねェけど、その可能性は高いだろうなァ。ここに来る途中で会った宇髄が吹き出してんの見たし」