第15章 豆撒きと刀
師弟揃って冷や汗を流しながら、それぞれ別の方角へと足を進めた。
今のところ剣士たちと遭遇していないが、木の上から狙いを定めている二人の剣士の姿を脳内で確認したので、姿がはっきり見える木の上に飛び乗ってぺこり。
「うわっ!あそこからだと見えなかっただろ?!何でここにいるって……」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!技を放て!」
動揺する剣士たちが繰り出してきたのは比較的使用者の多いと言われている水の呼吸の技。
流れる水のような滑らかな動きは高く舞い上がって戦う風属性の技を得意とする風音にとっては戦いづらい相手である。
それでも頑張ると言った手前逃げるわけにも負けるわけにもいかず、先を見つつ飛んだり跳ねたりしながら技を躱して徐々に間合いを詰めていく。
「技に技で返せないって……すっごく大変……ーーっ?!うわっ!」
放たれてきた技を受け流そうと木刀で受けると、清々しいまでの音を立てて木刀が真ん中から折れて……
「え?!ごめん!大丈夫か?!血、額から血が出てる!」
咄嗟に反応出来なかった風音の額に直撃した。
傷はそれほどでもないのだが場所が場所だけに重傷を負ったように見えるのだろう。
二人の剣士が無警戒に走り寄ってきた。
「私は鬼ですよ?鬼の怪我なんかに反応しちゃダメです」
片目が額からの出血により潰れてしまっていてもこれだけ近くにいれば遠近感が多少おかしくなっていても関係ない。
風音の言葉に立ち止まった剣士は咄嗟に腰の袋を守ろうと身を引き構え直したのだが、開始から二時間経たずしてそれは宙でぷらぷらと揺れていた。
いつの間にか風音が持ち替えていた予備の木刀の先に絡め取られていたからだ。
「ごめんなさい、これはいただきますね?代わりにこれをどうぞ!念の為に持ってきていた傷薬です。木を登った時に擦りむいたのかな?手のひらから血が出てる。では私は先を急ぎますので……あ、森を出る時は足元に気を付けて下さい」
「ちょっ!俺より君の傷を……あぁ……行っちゃった」
何故か先を急ぐ額に傷を負った少女の背はすでに遥か遠くにあり、大声を出さなければ呼び止めるのは不可能な位置に到達していた。
「あの子……確か風柱の継子だったよな?噂は聞いてるけど、何?その薬」
「うん……傷薬だって。自分の傷に塗って欲しかった……」