第15章 豆撒きと刀
「私も師範たちが技をほとんど放ってないってさっき気付きました。それなのに私はたくさん技を放ってたので……情けなくて恥ずかしいなって」
「……なるほどなァ。そもそも風音は違うことに集中する手筈だろ。まァ、そう思うなら今から試してみりゃいいじゃねェか。お前が先を見続けられる限り森の中に入ったヤツらの奇襲なんて無意味なんだからよ」
森の中へ姿をくらませて行った剣士たちを無理に追いかけなかったのはこうした意図があったらしい。
平地だと前後左右から止めどなく技が放たれて煩わしいが、森の中に逃げ込ませ……追い詰めてしまえば平地で戦うより少人数での行動を強制される。
「皆さんに来るであろう奇襲を私の予知で全て暴いて反撃する……って事ですね。はい!せっかくの豆撒きですし、ギリギリまで技を放たず目一杯楽しんでみます!」
「ようやくいつも通りに戻ったなァ。んじゃ行くとすっか。風音、まだ俺らの壁は必要か?」
「いいえ!大丈夫です!皆さん、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします!」
実弥以外、風音がやる気を甦らせるところが分からず首を傾げるが、せっかくやる気を取り戻し元気になった風音に野暮なことは言えないと各々森の前へと移動した。
「嬢ちゃん、俺らの姿見えなくても俺らの先を見て情報送れんだよな?」
「恐らく……九名という人数は慣れていないので明確ではありませんが、さっきの感覚だと大丈夫だと思います。何か気付かれた事があれば後ほど教えていただけると助かります」
「分かりました。でもあまり無理はし過ぎないようにして下さいね?今日は木刀なので大丈夫だとは思いますが、怪我にはくれぐれも気を付けて下さい」
何度も蝶屋敷にて長期間お世話になっているからか、しのぶからしっかり釘を刺されてしまった。
そして自らの血を武器として戦う実弥にとっても他人事ではないようで……師弟揃って何度もしのぶに頷き返した。