第15章 豆撒きと刀
ストンと地面に下ろしてもらったかと思うと、既に無一郎の体は遥か前へと移動しており、風音に技を放ったであろう剣士をコテンパンに叩きのめしていた……
「時透が苛立ちを露わにするのは初めて見た!風音は時透に好かれているのだな!……十秒後、右斜め後ろに気を付けろ!」
「え?そうなのですか?」
そう言って杏寿郎は笑顔を残して徐々に風音から離れていき、技を放つまでもなく剣技のみで複数の剣士の袋を切り落としては前へと進んでいく。
「右斜め後ろ……夙の呼吸 伍ノ型 天つ風!」
杏寿郎の言っていた場所に技を放ち剣士を吹き飛ばして初めて気が付いた……柱が殆ど技を放つことなく剣士たちを相手取っていたことに……
そしてそれに気付いたのは風音だけではなかった。
このまま柱の密集地にいては分が悪いと感じ始めた剣士たちは数人で一塊となり、気付いていない剣士の手を引っ張って森の中へと姿を消していく。
追いかければもちろん柱たちは容易に追いつく事が出来るはずだったが……誰も追いかけることはしなかった。
「やっと気付きやがった。こんだけ見せ付けてやってんのに俺らが技ほとんど放ってねェって…… 風音、なんで悲鳴嶼さんの後ろに隠れてんだァ?」
柱たちに技を放たれることなく圧倒されていたことにようやく気付いた剣士たちに苦言を呈している実弥から隠れようと、確実に体の全てを覆い隠してくれる行冥の後ろにこっそり移動したものの……師範の鋭い察知能力はかわせなかった。
「いえ……罰が悪いと言いますか……」
それでもどうにか実弥から隠れ続けようと行冥の羽織をキュッと掴んでその場から姿を消す……
「恥ずべきことは何もない。柊木は柊木の成すべきことをしていたに過ぎないのだからな。不死川も首を傾げている、前に出て来なさい」
優しい行冥の声音と言葉に励まされて実弥を覗き見ると、本当に首を傾げて風音の謎な行動を観察していた。
「お前、たまによく分かんねェとこでしょぼくれんな。怒ってねェからこっち来い。また何しょうもないこと思い付いて情けない顔してんだ?」
こっちに来いと言ったのに実弥自ら風音の側まで歩み寄り、視線が合うように屈んで情けなくしょぼくれた瞳を覗き込んだ。