第15章 豆撒きと刀
「やっぱり私の周りは人集り……もうやるしかないよね」
特に柱側の組紐を取ったとしても何も報酬はない。
ないのに剣士たちはやる気満々で風音の紐を虎視眈々と狙っている。
その様に小さく息を零し木刀を腰から抜き取ると、風音の準備完了が最後だったようで一斉に剣士たちが襲いかかって来た。
「ふぅ……夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳」
そよ風のような柔らかな風が剣士たちの髪を舞い上がらせ、その直後には風音の前方にいた数人の剣士が吹き飛ばされていった。
(背後は取られないように……前方右の集団、切りに行かないと)
柱側の鬼として任命されたからには剣士たちの腰の袋を切り落とす必要がある。
広範囲の技を風音が放てると分かった剣士たちが怯んだ隙に構えを取ってニコリと微笑み掛けた。
「風柱様の継子としてすぐに頸をとられるわけには参りません!夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風」
怯んだ剣士相手ならばどうにか太刀打ちでき、地面にポトポトと三つの小さな袋が落ちて……悲痛な叫びが平地に響き渡った。
「罪悪感が凄い……」
「風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風!」
幾度か聞いた声が風音の鼓膜を刺激し技が到達する頃には、風音は先を見て既にある場所へと降り立っていた。
「風音!それ狡くないか?!クソ、柱と合流された」
技を放ってきたのは勇。
風音の能力を知っている勇は悔しそうに顔を歪めて、実弥のそばに降り立った風音から距離を取る。
「狡ぃもクソもあるかァ、上弦の鬼に比べれば可愛いもんだろ!もっと距離取んねぇと……返り討ちにあうぞ!」
情け容赦なく木刀を振り続ける実弥に苦笑いを向けた後、風音は自分に課せられた本来の目的を達するために気を集中させた。
(あぁ……前後左右から隙間なく剣士たちの技が放たれてくる……あ、でも柱の皆さんなら技でいなすことが可能なんだった)
見えた先をまずは一番近くにいる実弥に届くようにと祈ると、実弥の手が風音の頭をくしゃりと撫でた。
「その調子だ、他の奴らにも送ってみろ!」
「あ、はい!皆さん、これをどうぞ!」
緊張感の欠片もない……まるで誕生日に贈り物を送るような声と共に次々と柱の頭の中へと、剣士たちの先の動きを映した光景が送り込まれていった。