第15章 豆撒きと刀
「俺が参加したのは過去数回だった。基本的に剣士の質が落ちた時に敢行されるようだな……厳しく果てしない催しだが、三人とも剣士たちの手本として頑張って来なさい」
槇寿郎の記憶でも激しく体力を消耗する催しなようだ。
そもそも風音は剣士の質など意識して見たことがなかったので落ちているのか分からない。
そんな状態で豆撒きに挑んだとして役に立つのか……という疑問が湧いてくる。
「私が柱側としてお役に立てる事があるんですか?脚の速さくらいしか取り柄ないのだけど……」
「あ?能力鍛えるために柱側になったに決まってんだろ?柱側なら味方の人数はお前抜いて九人。まずはこの九人に見た先の光景を送れるように尽力しろ。慣れるまでは俺らでお前のこと守ってやるから、この機会にどうにかしてみるこった」
なるほど……
剣士側だと人数が多すぎて風音の能力を伸ばすことが難しくなる。
誰に見た先を送ればいいか戸惑うし、いきなり事情の知らない剣士たちが頭の中に先の光景が映し出されると混乱してしまう。
その点、柱全員は風音の現状を逐一報告されているので頭の中に送り込まれても混乱しない上に、身体能力がずば抜けて高いので光景を元に適宜対処も可能ということだ。
「なるほど!そういう意図があるならば頑張らないとだね!槇寿郎さん!早速杏寿郎さんのお手を煩わせるかもしれませんが、精一杯頑張りますので勝敗の結果を楽しみにお待ち下さいね!では私はお昼ご飯を作りに行きます!実弥君、少し横になって休んでて大丈夫だよ」
灰色の思いの外柔らかな髪に頬擦りした風音は元気に立ち上がり台所へと足を向ける。
「あ!柊木さん、僕もお手伝いさせて下さい!お料理は僕も得意なんです!」
「わぁ!本当ですか?では一緒にお昼ご飯をたくさん作りましょう!皆さんが元気になりますようにって願いを込めながら」
楽しげに台所へと向かう二人を見送った実弥は溜め息をついてポツリと呟いた。
「あれ……めちゃくちゃ疲れんだよ。当日に泣きべそかいても知んねぇからなァ」
…… 風音が泣きべそをかくと思われる日まであと三日。