第15章 豆撒きと刀
鬼に家族を奪われたのは何も自分だけではない。
隣りで手を握ってくれている実弥だって母親を鬼にされてしまったがために失ってしまっている。
「ごめ……なさい。勝手なことを……杏寿郎さんが望んでいたことではなかったのに……」
遺された者の悲しみや喪失感。
こうしていれば……こんな言葉を掛けていればという後悔。
失ってしまった者はどんなに願っても戻ってきてくれない絶望。
鬼殺隊の剣士を支える家族でなくても、突然大切な人を奪われた人はこうした感情を抱きやすい。
その感情を抱き日の浅い風音の精一杯の杏寿郎の父親への言葉に、杏寿郎は風音の頬に流れた涙をそっと拭って変わらず笑顔を向けた。
「感謝をすれど謝られることは何もない。風音のひたむきで真っ直ぐな言葉に父上は心打たれたのだろう。ありがとう、風音。どうか俺の迎えるはずだった最期に胸を痛めて涙を流さないでくれ。俺はこうして生きている……手も暖かいだろう?」
涙を拭ってくれる杏寿郎の手は間違いなく暖かく、生きてくれているのだと実感させてくれる。
その暖かさに和んでいると、ぐいと手を引っ張られ全身が風音の大好きな温かさで包まれた。
「もういいだろ。泣き止むまでこうしてるから煉獄は待ってろ」
悪気などなく純粋な気持ちで泣き止んで欲しいと思っての行動だったとしても、何度も杏寿郎の手が風音の頬に触れたのが嫌だったらしい。
実弥は杏寿郎から風音を隠すように胸の中にすっぽりおさめてしまった。
杏寿郎はと言うと行き場の失った手をワキワキと何度か握り、気分を害した様子の全くない晴れやかな笑顔で手を腰に持っていった。
「すまない!不死川にヤキモチを妬かせるつもりはなかった!つい千寿郎と重ね合わせてしまったものでな!何とも年上心を擽られて加減を忘れていた!」
「クソッ……おい、風音。泣き止んだら声掛けろ」
「……フフッ、実弥君大好き!もう大丈夫、泣き止んだよ」
胸元からひょこっと顔を出した風音の頬には涙は流れておらず、実弥はムスッとしたまま風音を解放した……
ちなみに家に到着するまで風音が二人の間で歩くことはなく、常に隣りは実弥だったらしい。