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涼風の残響【鬼滅の刃】

第15章 豆撒きと刀


「いいえ、私が出しゃばって勝手に出来た傷ですから。それよりも……お酒を取り上げてしまったこと、怒っていらっしゃいませんでしたか?元柱の方に対して余りにも失礼なことをしてしまって……どうしようかと思っていたんです」

そんなもの構う必要ないと言うようにふいっと不機嫌な顔で横を向いてしまった実弥の手を握り杏寿郎に問い掛けると、少し考えた後にニコリと微笑み返してくれた。

「酒に関しては何も仰られていなかった。俺も君たちに今事情を聞いて酒のことを知ったくらいだからな。ただ、父上はある日から突然酒を飲むことを控えられた。風音が……何か父上に言ってくれたのだろう?」

何を自分の父上に言ってくれたのか……教えて欲しいと杏寿郎の優しいながらも強い光を灯した瞳が物語っている。

言ってもいいのか……実弥にさえ言うことを躊躇った杏寿郎が最愛の家族に最期に遺すはずだった言葉。
思い出すだけで体が震えるほどに悲しく胸を締め付けられる言葉を伝えていいのかと悩み悲しげに瞳を揺らしていると、実弥は風音が握っていた手を強く握り返してきてくれた。

「煉獄なら言っても大丈夫だ。ある程度……予測を付けてお前に聞いてきてんだろ。それに煉獄は目の前で生きてる、聞きてぇって言ってんだから教えてやれ」

静かな声音と同じく実弥の今の表情は穏やかで、風音の波立った心を落ち着かせていく。
しばらく歩きながら実弥の顔を見つめた後、風音は意を決して杏寿郎に向き直って言葉を紡いだ。

「杏寿郎さんが汽車の任務で息を引き取る直前、お父さんに遺した言葉があったんです。『体を大切にしてほしい』と……私はまだまだ鬼殺隊に入って日が浅いですが、大切で失いたくなくて……側にいて欲しかった人を亡くす気持ちを知っています。だから……」

「うん……その後も何か言ってくれたのだろう?教えてくれ」

杏寿郎の優しい笑顔がチクリと胸に痛みをもたらすが、実弥が握ってくれている手の温かさにどうにか涙を抑えて続ける。

「目の前からいなくなってから涙を流し悔やみ懺悔しても……戻ってきてくれません。だから杏寿郎さんと向き合ってほしい……と言いました。今でも杏寿郎さんの最期の姿や言葉が頭から離れなくて……出過ぎた真似だと思ったんですけど……どうしても家族全員で仲良く過ごしてもらいたかったんです」
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