第14章 炎と風
それから僅か数十秒後、風音からも玄弥からも心から慕われている実弥が部屋に戻ってきた。
もちろん起きていた風音はようやくしっかりと確認出来た実弥の姿に涙を浮かべ、起き上がって実弥を求めるように両腕を広げた。
「やっぱ泣いちまうんだなァ。側にいてやるから泣くな、傷に響いちまうだろ」
その腕の中に身を滑り込ませた実弥は風音が求めるままに体を抱き寄せてやり、あの森の中で受けたであろう恐怖や痛みを癒すように背中を撫でる。
「傷なんてなんてことない……皆が来てくれたからこれだけですんだの。でもね、すごく怖かった。殺されるより何より……鬼にされて実弥君や柱の皆さん……鬼殺隊の人たちや市井の人たちを殺してしまうんじゃないかって。実弥君と一緒にお日様を見れないんじゃないかって……死ぬほど怖かった」
震え涙を流す少女の頭の中に思い浮かんでいるのは自分の父親のことだろう。
望まず鬼にされ、人を多く喰らい……最期は愛する娘に幕を下ろしてもらった剣士の姿と自分を重ね合わせたからこそ震えているのだろう。
「よく耐えきったなァ。立花や玄弥を守りアイツらに助けられながらも、お前はこうして人として戻ってきてくれた。もうすぐ日が昇る……一緒にそれ見んのも悪かねぇな」
風音が望んでいたことを的確に叶えようとしてくれる実弥を見上げ、微笑んでくれている実弥の唇にそっと自らの唇を重ね合わせた。
その暖かさが今生きていることの奇跡や尊さを風音に伝えさせ、ハラハラと頬に涙を伝わせる。
(……涙止まんねェ。これからどうすっか考えることは山ほどあるが……今は安心させてやるのが先決か……)
重ね合わせるだけ……暖かさを互いに伝えるだけの口付けを数秒続けた後、実弥は風音の体をふわりと抱え上げて脚の上に座らせてやった。
「こうして俺を求めてくれんの……可愛いって思う。まァ……俺がいなけりゃ誰にも頼ろうとしねェのはどうかと思うが。お前、自分が動けねェからって森の中に置き去りにしろっつったんだろ?」
「ん……頼っていいのか分からない。実弥君に頼ってるみたいに、他の人に頼ってもいいのか……分かんない。結局頼らないと動くことすらままならなくて助けてもらったんだけど……頼らなくて怒られちゃった」