第3章 能力と剣士
そして実弥に鋭い視線を向けて再び。
「責任ヲ……」
「だァアア、もう分かったわ!死ななきゃいいんだろォ!俺は死なねぇし、いきなりお前の前からいなくならねェよ!……だからもう泣くなァ、好きなだけ俺の屋敷にいて好きなことしてろ。頼むから泣き止んでくれ、慰め方なんて知らねぇんだ」
蝶屋敷にいる幼い少女たちを慰めたことがあるものの、年下と言えど年頃の少女を慰めたことのない実弥はどうしたものかと考えたが、年下ならば年齢はさほど関係ないのでは?との考えに至り、幼い少女たちにしてやったことを風音にもしてやった。
握られていた手を離し掛け布団の中に腕を入れて、少しでも力を入れれば壊れてしまいそうな体を一気に自分の体へと引き寄せて胸元へおさめ抱きしめた。
「ほっそいなァ……しっかり食って体力つけて元気なれ。こんな細けりゃ稽古するにしても、すぐへばっちまうぞ」
薬を作れたとてあまりまともな食事を取れていなかったのだろう。
五年も1人で生きてきた……つまり十歳前後から村人により一人で生きることを強制されたのだ。
しのぶも風音は軽い栄養失調に陥っていると言っていたくらいなので、同じ屋敷に住むならば三食きちんと栄養のあるものを食べさせてやらなければならない。
そんなことを考えていると風音は抱き寄せられ驚き固まっていた体の力を抜いて、実弥の浴衣の襟をキュッと掴んで胸元に顔を埋めた。
「ちょっとは落ち着いたかよ?」
「うん……でも、あと少しだけこうしててほしい……です。あと少しだけ……」
胸元にすっぽりおさまるほどに小さな体は未だに震えており、完全には落ち着きを取り戻せていないように映る。
その震えが早くおさまるように……心の中で願いながら実弥は風音の背を手でポンポンと軽く叩いてやった。
「ったく……手のかかる奴だなァ。ちょっと目を離せばフラフラするわ、いきなり寝たと思えば半日起きねェわ……起きたと思えば泣いちまうわ……もう一回言っとくが、あんま心配かけんじゃねぇぞ」
僅か半日で多くの心配を掛けたにも関わらず、言葉と裏腹に優しい声音で話し掛けてくれる実弥に止まりかけていた涙が再び溢れ、もうしばらくの間、風音は優しい温かさに身を委ねた。