第3章 能力と剣士
「夢なんだから泣くな。俺は……」
“いなくならない”
そう言ってやりたかったのに言葉に詰まった。
普通に生活をしている人でさえ明日の我が身がどうなるか分からないのに、鬼狩りをしている自分の身は更に明日どうなっているか分からないからだ。
(軽々しく言えねェなァ……)
少し考えた末、体を少し離してゆっくり話し出した。
「なァ、俺は鬼殺隊の柱だ。柱ってのは任務に加え夜に警備もある。狩る鬼も一般剣士がてこずるようなのが多い。お前を落ち着けるためだけにいなくならねぇなんて優しい言葉をかけれるほど、俺は器用じゃねェんだわ」
昨夜全てを失った風音に対して酷な事を話している自覚は実弥にだってある。
そして風音は実弥が予想していた通り、涙を止めるどころか更に目から溢れさせ顔からは血の気を引かせている。
それでも自分の側にいることはどういうことなのか……伝えることをやめなかった。
「俺は明日の命なんて知れねぇ身だ。何でお前が俺に懐いてんのか分かんねェが……俺がいなくなることが怖ぇなら今のうちに」
「スグに放り出サナイッテ言っテイタ!保護シタナラ最後マデ責任持テ!」
風音が目を覚ましたことに気を取られてそちらに意識を向けていなかった。
その意識を向けていなかったモノへ目を向けると、まるで風音を庇うように羽を広げて首元に巻き付け……襟巻のようになっている爽籟が実弥を威嚇していた。
「あのなァ……俺は」
「責任ヲ持テ!」
「……」
「……」
無言の睨み合いに終止符を打ったのは、首元に爽籟を携えた風音だった。
小さな体ながらも風音の心を癒そうとしてくれている、心優しい爽籟を実弥の手を握っていない方の手で抱き締める。
「爽籟君、ありがとう。実弥さんはね、優し過ぎるんだよ。万が一任務とかで自分がいなくなった時、覚悟をしていない私が壊れてしまわないようにしてくれてるの。でも……やっぱりいなくならないでほしいし……側にいさせて……ほしいです」
最後の言葉は静かな夜だからこそ聞こえるような、ほぼ呼吸をこぼす程度の声量だった。
そんな震える小さな声が実弥だけでなく爽籟の胸も締め付けたのか、広げた羽を懸命に動かして頭を撫でてやっている。