第14章 炎と風
「何だァ?考えたいことって何だよ!やっぱアイツのこと好きになれねェ」
「そう言ってやるな。冨岡はあの森の中で風音に何か言ってもらったのだろう。俺も何に対してかは知らないが、冨岡は俺たちに対して負い目を感じているように映っていた。あの子の存在が冨岡の胸に燻っている何かを癒せるなら、不死川としても嬉しい限りではないか」
柱に就任した時から変わらない前向きな杏寿郎の言葉に小さく息を零し、実弥は心地良い湯の中に深く体を沈み込ませた。
「負い目ねェ……んなもんアイツにあんのか知ったこっちゃねェけど、風音が関わってんなら悪ぃ気はしねぇな」
まだ目を覚ますことはない(実際には目を覚ましているが) 風音が誰かを癒し、目を覚ました時に自分の姿を求めて涙を流すであろう風音の姿を思い浮かべると、知らず知らずのうちに笑顔となる。
それを見た杏寿郎は殊更穏やかな笑顔となり、実弥と同じように湯の中へと深く体を沈みこませた。
「風音は不思議な女子だな。俺の父上や冨岡を癒し、不死川を笑顔にしてやれる。きっと君たち兄弟の問題もいつの日か癒してしまうのだろう。どちらにも我慢を強制させることなくな」
「……玄弥に関しては鬼殺隊を抜ければ解決すんだけど。だが、何となく風音と玄弥は似てっからなァ……俺の言うこと聞きゃしねェ」
恋仲である風音も弟である玄弥も一貫して頑固である。
この際きかん坊の風音は置いとくとして、玄弥も玄弥で何を思ってか実弥に無視を決め込まれ落ち込んでいるものの、鬼殺隊を抜けようとする気配はない。
死ぬ気で守ってやりたいと心から思っているのに敢えて死地に飛び込んで行く玄弥に対して出てくるのは溜め息だけだ。
「意思が強いことはいいことだ。それが人を想ってのことならば尚のことな!さぁ、俺たちもそろそろ出ようか!風音が目を覚まして不死川が側にいなければ、涙を流してしまいそうだからな!」
「ガキかよ……まぁ……そうだなァ。様子見に行ってやるか」
既に風音が目を覚まして玄弥の世話になっているなど露知らず、二人は他愛のない会話をしながら浴室を後にした。