第14章 炎と風
ところ変わってこちらは風呂の中。
実弥からの詰問に疲れ果てた勇や、実弥に嫌われていると思っている玄弥はそこにおらず、広い浴槽には実弥と杏寿郎と義勇のみである。
「これからどうすっかなァ……アイツ、本格的に塵屑野郎に狙われ出しちまった。鬼殺隊辞めろっつっても聞きゃしねェだろうし」
「聞かないだろうな!こちらとしても風音の戦力を失うのは大きな痛手となる!宇髄が柱を退く日も近い、人を思いやれる強い剣士はいてもらうに越したことはないが……難しい問題だな」
「…………」
人の姿を見たい、出来るならば実弥に触れて欲しいと呑気に涙を流している風音とは裏腹に、柱三人は風音のこれからの処遇について頭を悩ませていた。
「冨岡はどう思う?風音をどうしてやればいいだろうか?」
「……分からない。ただ……」
自分を犠牲にするような戦い方はやめさせるべきだ
と言葉を紡ぎかけて口を閉ざした。
それもこれも風音が意識を飛ばす前に勇に
言い付けないで
と願っていたことを思い出したからだ。
その願いを実弥に何を聞かれても頑なに守り続け、今は精神的疲労で部屋で寝込んでいる勇を慮ってのこと。
「ただ……不死川や柱が側にいてやればいいのではないか?俺は……」
関係ない、(皆のように柱と呼ばれるに値しない俺は)お前たちとは違うのだから
と紡いでいたら実弥が激昂するであろう言葉足らずな言葉も発する前に止めさせた。
「自分を認めるとはどういう意味だろうか?」
「はァ?!テメェは相っ変わらず面倒臭ェ野郎だなァ!知るかよ、テメェで勝手に考えてろ!」
「自分を認めるとは普段の自分の行いに自信を持つ……ではないだろうか?例えば今回の件で冨岡がいち早く風音の元に駆け付けたことにより、冨岡が風音を救ったのだという事実を自分で認める、という具合にな!」
実弥には突っぱねられてしまったが、いつも通り杏寿郎は真面目に親切に教えてくれた。
それを受け入れられるかは別問題であるが、風音にあの森で言われた言葉もあるので否定的な言葉は思い浮かばなかった。
「そうか……俺は先に出る。考えたいことがある」
ポカンとする実弥と満足気に頷く杏寿郎を置いて、義勇は立ち上がり浴室を後にした。