第14章 炎と風
体にある無数についた傷が痛みをもたらし風音の意識を覚醒させた。
「ここは……蝶屋敷じゃない。藤の花の家紋の家……かな?実弥君や杏寿郎さん、冨岡さんは任務行っちゃった?勇さんと玄弥さんはここで休んでる?」
薄暗い部屋には誰もおらず自分がどれだけ眠りに落ちていたのかすら判明しない。
この薄暗さだと皆が任務に出ていてもおかしくないと理解していても、実弥の姿が見えないことが寂しくしゅんと気持ちが沈んでしまい涙がポロポロと零れ出した。
「分かってるんだけどね……自分が寝ちゃったから実弥君とお話すら出来なかったんだって。でも……寂しい……探してみようかな」
どうにか布団から体を起き上がらせて辺りを見回しても、やはり誰もいない事実は変わりなく、無理をすれば動く体を布団から引っ張り出して壁側まで這いずり移動し立ち上がって廊下へと急ぐ。
「せめて……自分がどれくらい寝てたのかだけでも知らないと。家主さんはいるはずだから……」
あと少しで廊下に繋がる襖へとたどり着くというところでその襖がゆっくり開き、実弥……ではなく実弥とよく似た顔をした玄弥が顔を覗かせた。
「お前……動いちゃ駄目だろ!兄貴……風柱に叱られんぞ」
風音が寝ている間に何があったのか、風音が実弥に叱られることが柱の中だけでなく一般剣士の中でも共通認識となっている。
そのことに恥ずかしさを覚えつつも、ようやく人を目に出来た安心感からポロポロと涙が溢れ出してしまった。
「え?!何で泣いて……えぇ?!ちょ、ちょっと待ってろ!皆風呂借りてるだけだから兄貴呼んでくる!……その前に布団に戻るぞ!き、傷が痛いのか?」
肩を支えられ布団へと促されている間、人の温かさがどうしようもないくらいに風音の心を満たして涙が止まらない。
それは布団に辿り着いてからも変わらず、目の前でワタワタと慌てる玄弥に申し訳ないくらいに……
「違うの……ごめんなさい。目が覚めて誰もいなかったから少し寂しくて……誰か探しに行かないとって思ってたら玄弥さんが来てくれたから安心しちゃったんです。すぐに泣き止むので少し待ってて下さい」
すぐ……と言うので泣き止むのを玄弥は座って待っていたのだが、泣き止むまでに五分の時間を要した。