第14章 炎と風
暫く無言のまま藤の花の家紋の家への道をゆっくり歩いていると、風音が誰よりも慕い存在自体を待ち望んでいたであろう実弥が杏寿郎と共に姿を現した。
「また……お前は合同任務の度に傷だらけなっちまうなァ。すまねぇな、あとは俺が運ぶ。お前らも休んどけ」
勇から風音を受け取った実弥は皆が向かおうとしていた藤の花の家紋の家に体を向ける……玄弥に一言も発することのないまま。
実弥の不器用な愛情を知っているのはこの中で風音と杏寿郎だけ。
未だに嫌われてると思っている玄弥は視線を地面に落として黙り込んでしまった。
その様があまりにも悲しく、踏み込みすぎてはいけないと分かっていても風音は実弥の頬に手を当てて口を開いた。
「実弥君、玄弥さんや勇さん、冨岡さんがいっぱい……助けてくれたの。何も言わなくてもいい……だけどこの事だけは覚えてて……ほしい」
言葉を交わせ、いがみ合っていてはいけない。
こういったことを風音は強制してくることはなかった。
ただ玄弥の存在が自分を救ってくれたのだと……その事実を知っていて欲しいと願われただけ。
どう答えればいいのか。
どんな言葉を風音に返してやればいいか分からず柔らかく弧を描かせた瞳を見つめ返していると、杏寿郎が風音の頭をぽんと優しく撫でた。
「大丈夫だ。不死川は十分にそのことを理解しているからな。君は安心して少し休むといい。傷も塞がりつつあるので眠っても差し障りないだろう」
「ありがとうございます。実弥君は優しいから心配になってしまうんです……いつも人のことばかりで……私が代わりに辛いことを受けれたらいいのに」
杏寿郎だけならともかく、ソリの合わない義勇や弟の前でこんなことを言われてしまえば実弥の眉間に皺が深く刻まれてしまう。
それが見えてるのか見えていないのか……そのまま眠りに落ちようとした風音が突然ピクリと体を跳ねさせた。
「何だァ?要らねぇこと言う前に寝ちまえよ」
「要らないこと……ううん、切実。勇さん……言い付けないで……お願い」
姿の見えない勇へと願った後、風音は実弥の温かさに身を委ねて意識を飛ばした。
……この後、勇は風音の願いと実弥からの圧力の狭間で悩み苦しむのだろう。