第14章 炎と風
目の前を何かよく分からないものが横切ったかと思うと、風音の体の至る所から血が噴き出し、まるで紙切れの如く軽々と後ろへと吹き飛ばされた。
運悪く吹き飛ばされた先には木があり、背中を強く打って喉から鉄臭い液体が競り上がってくる。
「がっ……ゴホッ!はぁ……夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風」
それでも体勢を立て直し向かっていく。
それというのも鬼舞辻が風音の噴き出した血を頭からかぶり、足をふらつかせたからである。
風音の血は鬼にとって猛毒。
更にしのぶが研究に研究を重ねその猛毒を凝縮させた毒薬を飲み、毒の濃度が濃くなった血を浴びたのだ……幾ら鬼舞辻と言えど免疫のない猛毒は文字通り体に毒だったようで、技を放ってきた風音を忌々しげに地面に膝をつきながら睨み付けていた。
かと言って致命傷を与えられたかというとそうは問屋が卸さない。
傷はやはり負わすことが出来ず、ただただ風音の体力のみを削り取っていくだけだった。
「どうして……ゲホッ……どうしてよ」
このままでは殺され取り込まれてしまうか、鬼にされてしまうかなど時間の問題だ。
現在鬼舞辻が膝をついていようといずれは立ち上がってくる。
そうなると満身創痍な風音では太刀打ち出来るはずもなく、残されるのは死か死より辛い現実である。
「風音ー!一旦距離を取るぞ!」
絶望に全身が染め上がりかけた時、ここに来て欲しくないと思っていた二人が物凄い速さで走り寄ってきて、刃を振り上げた風音を抱えて鬼舞辻から離れていく。
「勇さん!玄弥さん!やっぱり届かなかったの?!ここは危ないから早く逃げて!私が時間を稼ぐから……」
「頭の中に流れてきたよ!けどせっかく距離縮まった風音を見殺しに出来ないだろ!風音が俺たちを庇ってくれたように、俺たちも風音を助けたいんだ!」
二人が見たのは自分たちが死ぬ未来。
そして自分たちが死ぬ前に自分たちを庇って前に出た風音が殺される未来だった。
死ぬと分かっていて前に出る怖さは計り知れない。
しかしそれを未来でやってのけていた風音を見殺しにするなど、二人にはどうしても出来なかったのだ。