第14章 炎と風
「楓ちゃん……誰か柱の人を呼んできて欲しい。皆さん任務かもしれないけど、もしかするとどなたかは警備だけかもしれないから。お願い」
先ほどまでの嬉しそうな表情は消え去り、また顔面蒼白となってしまっている。
ただならぬ風音の様子に慌てて空高く舞い上がろうとしたが、柱たちに伝えるべき言葉を聞くためにどうにか思いとどまった。
「上弦ノ鬼デスカ?ドノヨウニ柱ヘオ伝エスレバ……」
「分からないの。上弦みたいに瞳に数字が刻まれてなかったから。でも凄く禍々しくて強い鬼……少し……ほんの少しだけどお館様に似ていたような気がする。私なんかじゃ勝てない……間違いなく一人だと命はない」
上弦の鬼と戦う未来を見たとてここまで怯えた風音など見たことがなかった。
それは今までどの上弦と会敵しても傍らに必ず柱が居てくれたからというのも大きな要因に違いないだろう。
しかし今は違う。
現在風音は甲ではあるが柱ではない。
柱となる条件を満たしていると言えど柱になっていないということは……つまるところ実力が柱になるには不足しているからだ。
それでも実力的には鬼殺隊の中では上位に分類されるはずなのに、上弦の鬼でもない鬼に怯えるなど異常事態である。
「カシコマリマシタ。今ノオ話ヲ柱ノ皆様ニオ伝エシマス!戻ルマデドウカ無事デイテクダサイ……スグニ戻リマスカラ!」
「ありがとう!どうにか持ち堪えるから心配しないで。楓ちゃんも気を付けて……先を見る時間がなくて確実に安全な道を教えてあげられない、ごめんね」
涙を流しそうなほどに眉をひそめた風音の頭をふわりと翼で撫でると、楓は今持ち得る全ての力を翼に込めて空高く舞い上がり瞬く間に姿を闇に溶け込ませていった。
「幾ら先を見ても食べられるか血を飲ませられる未来しか……あれ、鬼は鬼舞辻無惨が血を飲ませることによって生み出されるんだったよね……てことは数分後に姿を現すのは鬼舞辻無惨……鬼の親玉。どうしようどうしよう……でも援護に行かないと剣士の一人が死んでしまう!」
目の前で仲間の命が奪われるのは見たくない。
ただそれだけの想いで風音は震え逃げ出そうとする体を叱責して前へと進み続ける。
柱の誰かが来てくれる未来を祈りながら。