第14章 炎と風
そして玄弥は風音の突然の指示に反応がついていかず勇より僅かに遅れたものの、動き出してしまえば攻撃に達するまでの速度は速かった。
日輪刀の代わりに腰から抜き出されたのは楓の言葉通り南蛮銃で、それを目で確認するとほぼ同時に破裂音が森に響き渡り、見事に鬼の頭に弾を撃ち込んでいた。
「すごい威力。よし……攻撃が来ます!鬼から距離を取って防御体制、その後……各自の判断で反撃に転じて下さい!」
指示を飛ばしながら鬼からの攻撃を技でいなし、爪やら牙、毒液の合間を縫って鬼へと接近して勇が切り落としてくれた腕が再生する前に……と肩部分から再度切り落とした。
三方から放たれる技や銃弾に鬼が怯んだ隙に羽織の袖を躊躇いなく捲り上げて、やはり何の躊躇いもなく腕に刃をあてがい一気に引き裂く。
「大丈夫、苦しむのは一瞬だから」
風音の表情が穏やかな笑顔なのでそれだけ見れば任務地だということを忘れそうであるが、鬼に自分の流れ出ている毒の血を浴びせかけているのだから狂気としか映らない。
しかも血を浴びせられ地面に膝をつきもがき苦しむ鬼の首を即座に斬り落としたので、初見の者……玄弥は恐怖を覚えたのか体をぶるりと震わせた。
「柊木!ありがとう!でも……ごめん。合同任務の度に傷作らせちゃって」
そんな風音に怯むことなく声をかけてくれたのはやはり勇の方で、風音は嬉しそうに顔を綻ばせながら首を左右に振った。
「ううん、だいたいいつもこうして戦ってるから気にしないで下さい!えっと……確か後三体の鬼がこの山に潜んでるから、先に戦ってくれてる剣士たちの援護に向かいましょう!」
この言葉を待っていたかのように楓が空から風音の肩へと舞い降りた。
そして暫くの沈黙の後…… 風音は顔面を真っ青にさせて楓を胸元に誘って抱き締める。
「どうしたんだ?顔色……悪いぞ?やっぱり傷が痛むんじゃないのか?」
突然顔色を悪くして体を小刻みに震わせた風音を心配した勇が歩み寄って肩を掴むと我に返ったようで、明らかに作り笑いと分かる笑顔を返された。
「そうじゃないの、鬼が……強そうなのかもって心配になっただけ!私は北に向かうので立花さんは北西、不死川さんは南西の鬼をお願いします!落ち合う場所はさっき合流したところにしましょう」