第14章 炎と風
近付く度に剣士の顔がよりはっきりと風音の瞳に映し出され、すぐ近くに来ると考えていたことが確信に変わった。
「お待たせしました、鬼殺隊剣士の柊木風音です。今日はよろしくお願いします!」
実弥が弟である玄弥を鬼殺隊から除隊させたいのだとしても、風音としては今から共に任務を行う剣士である。
雰囲気が悪くなることは避けなくてはとぺこりと頭を下げ、体勢を戻す頃には笑顔で二人の顔を見た。
「柊木、久しぶりだな!今日はよろしく!柊木は不死川とも一緒に任務したことあるのか?」
気さくに笑顔で返してくれたのは何度か共に任務を行い、那田蜘蛛山で風音に自分の名前を下の名前で呼ばせようと決意した青年、立花勇だった。
何度も合同任務をしてきたと言えどまだまだ親しい人の少ない風音にとって、こうして笑顔で再会を喜んでくれる勇のような存在は嬉しく、ニコニコと笑顔で手を取ってコテンと首を傾げる。
「お久しぶりです、立花さん。お元気そうで安心しました。不死川さんは初めてだけど、風柱様にお顔が似ていたから弟さんかなって思って。初めまして、不死川さん。今日はよろしくお願いしますね」
微笑み返してくれた勇の手を離して玄弥の手を握ると、ごく稀に実弥の全力で恥ずかしがる姿と全く同じ様になってしまった。
……顔を真っ赤に染めそっぽを向いてしまったのだ。
それが何とも風音の胸をくすぐるも、目の前にいるのは実弥ではなく実弥の弟の玄弥である。
いつまでも手を握り続けるわけにはいかないので玄弥から手を離し、肩の上へと移動していた楓に頬を擦り寄せて先を見せてもらった。
「ここから東の方角かな?私が先陣を切るので追撃をお願いします。楓ちゃんは皆の鴉さんと空から様子を伺っててね?ふぅ……行きます!」
言い終わったと同時に風音は風の呼吸の派生の剣士らしく、二人の剣士の前からあっという間に姿を消した。
「え……どうなってんだ?柊木って……確か兄貴……風柱の継子だよな?」
「そ!知ってるか?あの子、奇跡の女剣士って呼ばれてるの。ちなみに奇跡の女剣士って噂は俺が広めた!柊木の言う言葉はいつも的確なんだ。さ、俺たちも行くぞ!」
自分の兄の継子の存在と噂は耳にしていたが、実際にその姿を見ると細い見た目からは強さなど感じ取れなかった。