第14章 炎と風
「ほら、来い」
ようやくふわふわと表情を綻ばせて実弥の手の暖かさに和みだした風音を両腕を広げて呼ぶと、喜び勇んで飛びついてきた。
それで少し体幹を揺らしたとしても願えば腕の中に飛び込んでくるいつも通りの風音が可愛らしく思え、苦言を呈するなど思い浮かびすらせずギュッと抱き締め返す。
「お前が傷付くような嘘なんてつかねェから怯えんなァ。お前の力は間違いなく人を鬼から救えるもんだ。怖々使うなんて勿体ねェだろうが」
「ごめんなさい、実弥君。大好きな人が私のせいで痛い思いしてるんじゃないかと思うと気が気じゃなくて。でもよかった……人を傷付ける力じゃなくって。実弥君、付き合ってくれてありがとう」
ホッと息をつき体の力を抜いた風音の頭を撫でてやると更に力が抜けて、ほぼ全てを実弥の体へと預けだした。
暖かさだけでなくその重みすら心地よく、実弥は風音を抱き締めたまま畳に寝転がった。
「そもそも俺が試せって言ったことで風音が気に病む必要なんてない。……てかお前、相変わらず体温高ェなァ」
「実弥君は誰より何より大切だから、気になるのはどうにもならないよ。んーー?今日は簪買ってもらったり杏寿郎さんのお父さんとお会いしたり……お酒取り上げちゃったりしたから体が興奮状態なのかも」
ふわふわと和みながら紡がれる小さな声は不思議と聞き心地がよく任務前でなければ眠くなっていたかもしれないが、残念なことに任務前は基本的に実弥の気持ちが昂っているので眠気などやってきてくれない。
それでもこうして横になっているだけで随分と体は休まるもの。
「煉獄の親父に関しては完全に予定外だけどなァ……てかあの酒どうすんだ?返すっつっても、いつどの頃合で返せばいいのか分かんねェだろ?」
「……そこまで考えてなかった。どうしよ、お父さんが向き合ってくれたかなんて杏寿郎さんに聞けないし、聞いちゃいけない内容だもんね」
杏寿郎に聞いたとしてもきっとありのままを教えてくれるだろう。
しかし無事に家族で話し合えていたならばまだしも、今まで通りだった場合は聞くことによって杏寿郎を傷付けてしまうかもしれない。
しばらく二人で頭を悩ませたが取り上げた酒に関して解決することはなかった。