第14章 炎と風
(おぉ……流れてきた。すげェ、俺が戦ってんじゃねェか!あ、腕から血ィ流れたが今は痛みもねェ!っと…… 風音は……泣きそうな顔してやがる!わ、笑っときゃ良いのかァ?!)
頭の中に流れてきたものがあまりにも鮮明で感動し興奮ていた実弥であったが、目の前で心配そうに涙を浮かべながら見つめてくる風音がいてはそれどころではない。
興奮冷めやらぬまま笑顔を作ると思いのほか引き攣っていたらしく、風音は眉をひそめてその場から背後へと飛び退いてしまった。
「痛かったら突き飛ばしてって言ったのに!どうして我慢するの?痛い思いしてほしくない」
「違ェって!いいからこっち戻れ、痛みなんてなかった。ただお前が今まで見てたのがこんなにも鮮明なもんだって思ってなかったんで……おい、何で避けてんだよ」
風音を側に連れ戻そうとした実弥の伸ばされた手は風音が身を引いたことにより空を切り、手のひらに広がるはずだった暖かさを感じ取れなかった。
出会ってから今まで風音に避けられたり拒否されたことのなかった実弥の胸の内にジクジクとした痛みが広がり、空を切った手を握りしめて自分の脚の上に置いた。
(クソッ、んだよ……今までも剣士とかに避けられたことあったじゃねェか。それと同じはずなのに……コイツに避けられっとこうも乱されんのかよ)
実弥が心に打撃を受けたのと同じく、風音も風音で痛みを与えてしまったと勘違いをして瞳にいっぱいの涙を溜めて震えている……
泣きたいのは避けられたこっちだと思っても風音も傷付いているのは事実なので、怖がらせないようにゆっくりと歩み寄り側に腰を落ち着けた。
「本当に痛みなんてなかった。だから……俺を避けんなァ。今度避けたら一緒に寝てやんねェぞ」
子供のような要求であっても風音からすれば一緒に寝てもらえないのは一大事。
頬に触れようと手を伸ばした実弥をビクビクと見つめながら、触れられるとやはりその暖かさが心地よく、ほんの少し風音の心が落ち着きを取り戻した。