第14章 炎と風
「お前は……汽車での任務で死ぬはずだったのか?」
どうにか紡ぎ出せたのはこれだけだった。
十年以上まともに息子たちと話そうとすらしなかった槇寿郎が出せた精一杯の一言。
声音も決して優しいものでなくぶっきらぼうだと自分でも分かるものしか出せなかったのに、そんなものは大した問題ではないと言うように杏寿郎の表情が一気に明るくなった。
「はい!どうやら死ぬはずだったようです。それが先を見ることの出来る少女が自身の体に傷がつくことも厭わず先を見続けてくれて、こうして生きております。柊木風音に会われましたか?」
短い問い掛けだったにも関わらず、包み隠さず全てを話してくれた杏寿郎の笑顔が眩しく思わず視線を手元の薬に落とす。
長らくまともに見ていなかった笑顔に罪悪感を胸にくすぶらせながら、杏寿郎の言葉を頭の中で反芻させる。
(体に傷がつくことも厭わず……どういう意味だ?未来を見ることに対して代償でもあるのか?)
返事を返したくても更に質問を重ねたくともやはり声が出ない。
息子がこんなに笑顔で話してくれているのに何をしているんだ……と心の中で思っていると、それを何となく察したであろう杏寿郎が草履を脱いで部屋の中へと変わらない笑顔で入ってきた。
「千寿郎。こっちにおいで、父上と俺と話をしよう」
そしてもう一人の息子である千寿郎まで呼び付けてしまう。
杏寿郎だけでもいっぱいいっぱいな槇寿郎の心中は穏やかではなくなり、意識をしていないのに表情が険しくなってしまった。
今の険しい表情を見ても怯まないのは杏寿郎だからこそ。
杏寿郎の弟にあたる千寿郎は槇寿郎を恐れているので、案の定槇寿郎の表情を目にした途端庭で立ち尽くしてしまった。
「おいで、父上は少し緊張しておられるだけだ。それに千寿郎にも聞いてほしいことがある」
成長を見守ることすらしなかったと言えど杏寿郎と千寿郎の兄弟仲がいいことは槇寿郎も知っていた。
兄は弟の優しい心根を信じ可愛がり、弟は心身共に強く優しい兄を尊敬し慕っている。
そんな二人がいそいそと部屋の中に入り腰を下ろす姿を見て、槇寿郎も深呼吸……と言うよりも全集中の呼吸常中を駆使して心と体を落ち着けて腰を下ろした。
さすが元炎柱である。