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涼風の残響【鬼滅の刃】

第14章 炎と風


その頃、風音に酒瓶を取り上げられた槇寿郎は自室にて落ち着きなくあっちへこっちへと歩き回っていた。

(先を見る力などあるのか?杏寿郎が死ぬ未来など……本当にあったのか?)

お館様が少し先の未来を予知出来ることは元柱である槇寿郎の知るところであるが、お館様以外にそんな力を持った人間など今までお目にかかったことがないので混乱しているらしい。

そんな槇寿郎の耳に届くのは庭で弟の千寿郎に稽古を付けているであろう杏寿郎のよく響く声。
この声が本当ならば聞こえていなかったかもしれないと思うと、風柱に守られていた少女の言うように向き合うべきなのだろうと分かる。

分かるのだが……様々な要因で辛く息子たちに当たり散らし成長を見守ることすらしてこなかった槇寿郎にはそれだけでも果てしなく難しいものなのだ。

「杏寿郎がいつ死んでしまうかも分からんと思っていたが……既に死んでいただと?どうする……真偽は杏寿郎に聞くのが一番だが……どうすればいい」

実弥や風音と別れてから茫然自失状態で帰ってきたので手には強制的に握らされた薬の入った包みが握られたまま。

足を止めて手を開きそれに視線を落としてどうしたものか……と悩んでいると、突然目の前の庭へと続く障子が勢いよく開いた。

「父上!どうされましたか?!先ほどから部屋の中を行ったり来たりしている影が見えましたが!具合でも悪いのですか?」

幼い頃から明朗快活さの変わっていない息子である元気な杏寿郎の姿が視界に映り、槇寿郎の胸の中に例えようのない激しい痛みが走った。

こんな痛みはいつぶりだろうか。

キョトンとする杏寿郎を呆然と見つめたまま過去に思いを巡らせると、思い当たる自分が柱を辞め息子たちと向き合うことすらやめてしまった一つの要因が更に槇寿郎の胸を締め付ける。

(あぁ……瑠火を……この子たちの母を亡くした時と同じ痛みだ。だが今更どう言葉を掛けろと言うんだ)

槇寿郎が悩んでいたとしても杏寿郎が部屋を出ていく気配などない。

「父上?体調が優れないのであれば横になられてはどうでしょうか?俺と千寿郎で薬を用意してから戻るので少しお待ちください」

このままではまた今朝までの自分に逆戻りになってしまう。
一度横になればまた起き上げれなくなってしまうかもしれない……
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