第14章 炎と風
辛い時こそ側でどうにかしてやりたいのに、泣きながら任務から帰って来た時ほど風音は実弥と一定の距離を保って泣いていたことを悟られないよう努力してしまう。
目が赤くなり潤んでいるので結局のところ一目見ただけで泣いてたのだと実弥は悟っているのだが、本人は悟られていないと未だに思い込んでいる。
「今、不安に思ってることはねェのかァ?お前、自分の見た先を人の頭ん中に送ることが出来るようになってんだろ?痣も任務終えてから一週間消えてなかった」
杏寿郎との汽車での任務後と同じく天元との花街での任務後も、風音は一から百まで事細かに起こった出来事や戦闘の様子を実弥に伝えた。
もちろん玖ノ型が成功したことも……だ。
実弥が例えに出した話は風音にとってその当時も今もたいしたことではなかったが、不安に思うことはあったようでぽつりぽつりと話し出した。
「能力のことも痣のことも私は大丈夫なんだけど……私の見えた未来を頭の中に送り込んで、送り込まれた人が私みたいに感覚を共有しないか……不安です。私の体はきっと特殊だから耐えられるように作られてるけど、他の人は違うと思う。もし共有してしまうなら使いたくない」
こればっかりは実弥も正確な答えを持ち合わせていない。
しのぶにも確認してみたが天元や伊之助から話を聞いても、自分が傷を負う未来が流れ込んだわけではないので分からない……とのことだったからだ。
ただこの件を知ってる3人の柱の意見は一致していた。
「使いたくねェなら使わなくていい。だが……俺や宇髄、胡蝶はお前の体に害を及ぼさねェなら、事情知ってる奴らには使っちまえばいいと思ってんだ。正確なモンを伝えられる手段は使うに越したことねェからなァ」
体を少し離して胸元にすっぽりおさまっている風音を見ると、ちょうど風音もそろそろと顔を上げて実弥の顔を見ようとしていたようで、促さなくても不安に揺れた瞳と視線が合った。
「そんな泣きそうな顔すんな。お前の言葉を使わせてもらうなら『鬼に有効な手段は使うに越したことはない』だったよなァ?……まずは俺で試してみろ、そっから使うか使わねェか決めりゃいいんじゃねぇか?」