第3章 能力と剣士
勢いよく振り返り義勇の胸ぐらを掴んだところでしのぶに宥められた。
「まぁまぁ。不死川さんに今日急遽任務が入ったら、冨岡さんが行ってくださるということで良しとしましょう!私は蝶屋敷に帰らなくてはいけませんので……冨岡さん、そういうことで」
勝手にしのぶによって話が進み、義勇が抗議する間もなかった。
アワアワと慌てる義勇を後目に実弥はニヤリと笑い風音に向き直る。
「だとよ。取り敢えず任務が来た時にどうするか考えるわ。胡蝶、いきなり呼び付けて悪かったなァ。朝なってコイツが目ェ覚まさしても覚まさなくても、爽籟で知らせる」
「分かりました。では冨岡さん、私のお買い物は急ぎではありませんので、冨岡さんの今日の宿を探しに行きましょうか。野宿というわけにはいきませんし」
どうやら義勇が実弥の代理を務めることは決まってしまったらしい。
ここで反論したとしても受理されないし、そもそも実弥に一晩風音の側に……と提案したのは他でもない自分自身である。
「分かった」
短い返事をして了承し、立ち上がって部屋を後にしようと歩を進めたしのぶに続いて実弥に背を向けると、思ってもみなかった提案が実弥からもたらされた。
「廊下出て突き当たりの部屋使えよ。手間掛けさせてんのはこっちだかんなァ……俺の荷物置いてるが寝るくらいなら邪魔になんねェだろ」
なんと……顔を合わせれば何故かいつも怒る実弥から義勇は部屋を与えてもらえた。
それが風音を第一に考えての言葉だったとしても義勇からすれば嬉しいらしく、笑顔とまではいかないものの僅かに表情が綻んだ。
「……有難く使わせてもらう。胡蝶、俺はこの宿で厄介になる」
未だに綻んだ表情の義勇にニコリと頷き反し、しのぶは今度こそ部屋を出る。
「では不死川さん、知らせをお待ちしています」
「あぁ、今日は助かった」
その言葉を合図にしのぶは笑顔を残してこの部屋から退却し……義勇はまだ立ち尽くしたままだ。
もちろん一晩中義勇と同じ部屋にいるつもりなど毛頭ない実弥の額に血管が浮き上がった。
結果的に起きることはなかったが、風音が目を覚ますのではと思うほどの怒号によって義勇は実弥に譲ってもらった部屋へと退散していった。