第3章 能力と剣士
笑顔から一変、眠り続ける風音の姿に心配げに眉をひそめて側へと歩み寄って腰を下ろすと、首元や手首に触れて触診を開始する。
「胡蝶、コイツ薬作んの好きだって言っただろ?その薬を作るために変なもの飲んだりしてねェか?」
義勇には目もくれず実弥はしのぶの隣りに腰を下ろし、静かに診察を続けているしのぶに問い掛ける。
「解毒剤なども作ってるなら考えられますけど……昼餉をご一緒した時に飲んでいた様子は見られませんでした。そうなりますと私たちと会う前に飲んでいたことになりますよね?いくら何でもそこまで効き目の遅い変なもの……毒は特殊な器具、調合をしない限り作れないと思います。見たところ眠っているだけのようですし……どうされますか?蝶屋敷で預かっても構いませんが」
つまり今ここで眠り続ける原因は分からないということだろう。
毒を飲んでいるわけでもなく、本当に眠りに入っているだけ。
「蝶屋敷に連れてったら目ェ覚めんのか?」
「分かりません。こうなった原因が不明ですので、色々検査をして原因が判明すればそれに合った処置は施します。分からなければ栄養剤や水分を点滴で体に入れて様子を見るだけになるかと」
しのぶに分からないのであればどこの病院に連れて行っても同じような診断、処置を施されるのだろう。
それならばそこらの病院ではなく、人の出入りが激しいといえど蝶屋敷の方が風音が目を覚ました時に心が穏やかでいられるはずである。
実弥ではどうにかしてやることは出来ないし、今のところ任務が入っていないと言えど急に入るかもしれず……普段はほぼ任務と警備で夜になれば外に繰り出さなくてはいけない。
ずっと側で様子を伺ってやることが出来ないのだ。
それならばしのぶに預けた方が安心だと保護を願い出ようと口を開きかけた瞬間、背後……しかもかなりの至近距離から声が聞こえた。
「……今日だけ様子を見てやったらどうだ?万が一夜中に目を覚まし、不死川がいなければ混乱するのではないか?母さんだと認識されているみたいだしな」
振り返らなくてもこの部屋にいるのは自分としのぶを除けばただ一人なので誰かなどな考えなくても分かる。
分かるのだが……いつも二言も三言も少ないと思えば、今回のように一言余計な言葉を付け加えてしまうこともある義勇だ。
「冨岡テメェ……馬鹿にしてんのかァ?!」