第14章 炎と風
「関係ねェなんてどの口で言いやがる。酒に溺れて柱を勝手に退き、家じゃあ何の罪もない煉獄たちに当たり散らしてんだろォ!煉獄は何も言わねェが、任務が入っていなかったはずの次の日……アイツの頬が腫れてんの何度か見てんだよ!迷惑しか掛けられてねぇわ!」
実弥は喧嘩っ早いところはあるが無闇矢鱈と誰かを攻撃したり挑発することなどない。
任務時はともかくとして、風音と家で過ごす時は基本的に穏やかで優しい笑みを向けている。
その実弥があからさまに特定の人物に対して苛立ちを露わにする様や放たれた言葉に驚き、風音は実弥の着ている着物の袂をキュッと握ってから自分を隠してくれている背中から僅かに顔を出した。
「何も知らないお前に……基本の呼吸が全てだと思い込んでのうのうと柱を続けているお前に何が分かる?!舐めた口を聞くなぁ!」
振り上げられた拳を実弥なら容易に躱せると理解していた。
していたのに実弥に危害が加わるかもしれないと思うと風音の体は勝手に動き、今度は風音が実弥を庇うように前へと飛び出してしまった。
案の定……受け身を取ったものの軽い風音の体は道へと叩きつけられ、殴られた頬だけでなく体にも痛みを走らせる。
それを見た実弥が黙っているわけがない。
言葉すら発さず元炎柱の襟元に掴みかかろうと足を踏み出した実弥の足に、風音は慌てて上体を起こして必死に縋りついた。
「今のは私が悪いから怒らないで!実弥君、杏寿郎さんのお父さん、いきなり前に出てすみません!私は平気です、どうか喧嘩なんてしないで下さい!でも……この痛みを杏寿郎さんが度々受けているのが本当なら、私はすごく悲しい」
二人を見上げた後に地面へと悲しげに視線を落とした風音を見た実弥は即座にしゃがみ込み、赤く腫れてしまった風音の頬を優しく撫でる。
「早く冷やさねぇと。悪ぃ、俺が余計なこと言っちまったから……ほら、もう行くぞ。親父の代わりにお前が煉獄に笑顔向けて……おい……泣きながらも何か考えてんだろ……」
はらはらと涙を流しながらも……実弥の言う通り風音の表情は何かしでかそうと考えているのがありありと分かるほどに眉根が寄っていた。
そして実弥の期待通り、風音は立ち上がって元炎柱と向かい合う。