第14章 炎と風
実弥の言葉が風音の耳に届く頃には既に杏寿郎だと確信を得ていたはずの人物の腕を掴んでいた。
「お前誰だ?」
そして次に聞こえたのは聞いた事のない杏寿郎の声ではない人物の声。
何がどうなっているのか分からず風音が顔を上げると、そこにいたのは杏寿郎の面影を持つ別人の顔があった。
「あ……えっと。私は鬼殺隊の柊木風音と言います。すみません、炎柱様に似ていたので思わず腕を取ってしまって……あの!もしかしなくても杏寿郎さんのお父さん……」
誰かと確認しようとした風音の口は隣りにやって来た実弥の手で塞がれた。
どうしてと実弥へ聞くように視線を向けるも、実弥は険しい顔のまま目の前にいる杏寿郎に似た人物を見据えている。
「よォ、久しぶりじゃねェか。元炎柱。相変わらず息子たちを放って酒浸りの生活してんのかよ?」
そして実弥が視線を元炎柱なる人物の手に移動させて更に表情を険しくした。
(元炎柱ってことはやっぱり杏寿郎さんのお父さん?酒浸りって……あ、手に酒瓶が握られてる。……それより息子たちを放ってって……どういうことだろ?)
大人しく思考を巡らせている風音の口元を解放すると、実弥は一度元炎柱をねめつけてから風音を伴って背を向ける。
「行くぞ、そいつは煉獄の前の炎柱だが今じゃ酒浸りのどうしようもねェ奴だ。途中で自分の色んな責任を放り出した奴なんて相手すんな」
小さな声で紡がれた実弥の言葉は風音にしか届いていなかったはずなのだが、先ほどの実弥の言葉に苛立ちを感じたであろう元炎柱が実弥の腕を強く引いた。
「おい!言いたいことがあればハッキリと言ったらどうだ?!俺がどんな生活しようがお前に関係ないだろ!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」
酒の匂いを撒き散らしながら怒鳴る姿に実弥は一切怯むことなく振り返り際に掴まれていた手を振り払い、風音を庇うように一歩前へと歩み出る。