第14章 炎と風
あれも可愛い、これも可愛い。
始めに入った店で何十分も悩んだ末に風音が気に入った髪飾りは特売品の棚にちょこんと置かれていた、深緑の綺麗な布と菊の花が染め入れられた若葉色のちりめんを重ね合わせてリボンというものにしたもの。
そのリボンがつけられた簪は現在、風音の小さなお団子を覆っている。
「実弥君、ありがとう!ずっと大切にする!」
と満面の笑みだ。
なぜわざわざ特売品の中から選ぶのだとちょこっと心の中で思っていたものの、風音の今の満面の笑みを見ればどうでも良くなった。
恐らく実弥に買ってもらうからと始めは遠慮して特売品の棚を見ていたのだろうが、幾つも様々な髪飾りを見て本当に気に入ったものを選んだのだと今の笑顔で十分伝わるからだ。
「あぁ。花街での任務を無事に終わらせたご褒美だ。あんま気負わねェでつけてりゃいい」
頬を少し赤く染め腕にぴたりと体を寄せている風音の頭を実弥がふわりと撫でると、笑顔は更に深まって体も更に腕へと寄り添わせた。
「うん、本当に嬉しい。あの任務で私が無事に生き残れたのは皆と実弥君のお陰様だよ。皆がいてくれて……あの時実弥君が駆け付けてくれたから私が生き残れた。いつもカッコイイなって思ってるけど、あの時の実弥君、すっごくカッコよかった」
「……お前なァ……はァ。まぁいい。そうか、お前にそう思って貰えたんなら赴いた甲斐があるってもんだ」
ここが街中でなければ口付けを……と思っていたが、それをしてしまえば風音が目を回すほどに恥ずかしがってしまうので思いとどまって視線を前へと戻した。
それにつられて風音も前へと視線を戻す。
「あれ?前を歩いてるの杏寿郎さんじゃない?せっかくだから皆でご飯食べようよ!待っててね、呼んでくるから!」
そして二人の目に映ったのは金色の髪に赫い毛先をもつ見覚えのある者の姿。
隊服を身に付けておらず灰色の着物を気流しているその人物が誰か分かり、喜び勇んで走りよっていく風音の手を掴もうとしたのに……杏寿郎だと確信して走り去る風音の手は掴めなかった。
「風音待て!そいつは煉獄じゃ……いや、煉獄だがお前の知ってる煉獄じゃねェ!」