第14章 炎と風
風音の欲しがるものは山や野で自生している薬草、手紙を書くために必要な紙や墨。
たまに好物となったおはぎくらいなものだ。
しかも紙や墨に関しては鬼殺隊本部から支給されるので、実の所風音が嗜好品として自ら欲するものはおはぎだけとなる。
そんな風音に本やら着物やらを勧めてみるも
『そんな高価なもの買ってもらえないよ!本は前に実弥君に買ってもらったのがあるし、着物もお母さんの形見が残ってる。それに実弥君が見繕ってくれた袴があるから。私は側に実弥君がいてくれて、毎食お腹いっぱいご飯を食べられるだけで幸せ』
と……嬉しくも欲の欠片もないことを述べるので何かを贈りたくても贈れずにいたのだ。
それがこうして喜ぶ物を贈ってやれると思うとやはり嬉しいもので、大人しく笑顔で頭を撫で続けられている風音に対して笑顔が零れる。
「なァ、今から買いに行かねぇか?疲れてんなら……」
後日でも構わない
と言おうとしたのに、突然風音が勢いよく抱き着いてきたので言えずじまい。
しかし抱き着いてきた風音からひしひしと嬉しさが伝わってくるので叱る気すら起きず、とりあえず落ち着けと言うように背中をゆっくりと撫でてやった。
「行く!行きたい!疲れなんて胡蝶さんのところに随分前に置いてきたから!そうと決まればさっそく着替えなきゃ!せっかくだから実弥君が見繕ってくれた袴にしようかな」
……背中を撫でたくらいでは落ち着かなかった。
「偉い喜びようだなァ。そんな興奮してっと転んじまうぞ。出掛ける前に怪我しねぇように部屋まで運んでやる」
「え?わわっ!フフッ、この運ばれ方久しぶり!私があの村で悲しい気持ちになった時に抱えてくれた時と同じ」
片腕で軽々と抱え上げられた風音は当時を思い出すように実弥の頭に自分の頭をぽふんと乗せ、やはり嬉しそうににこにことご満悦である。
「あぁ……そういやそう……だったか。すっげぇ動きにくいが怪我されるよりはマシか。落ちねぇようにしっかり掴まっとけよ」
言われなくとも風音はしっかりと実弥の頭にふわりと腕を回しているので部屋まで落ちることはもちろんなかった。