第14章 炎と風
天元の独り言が聞こえていなかった二人が部屋へと入ってきた。
実際に足を踏み入れたのは実弥だけで、風音は天元の耳に届いていた音通り実弥に両腕で抱きかかえあげられた姿で姿を現したのだが……天元の顔を見てまた大粒の涙を流してしまった。
寂しさや懺悔から涙を流す風音に小さく溜め息を着きながら天元の前へと座り直し、小刻みに震える頭に自分の頬をあてがう。
「また泣いちまった。風音、別に宇髄が鬼殺隊抜けるからって永遠に会えねぇってわけじゃないだろ。お前が無茶で無謀な戦い方したから抜けんじゃねェ、コイツにはコイツの事情や考えがあって抜けるんだ」
「むしろ時間有り余るから頻繁に会いに行ってやる!今度はちゃんと先に知らせるから、嫁たち共々歓迎してくれ!……俺と嫁たちはな、忍として数え切れねぇくらい命を奪ってきた。だから命の遣り取りとは無縁の生活して、嬢ちゃんたちみたいに普通の人間に戻って派手で地味な人生送ってみてぇんだ」
静かな声音で言葉を紡ぎながら風音の頭を撫でる天元を仰ぎ見ると、そこにあったのはことのほか穏やかな表情で、滝のように流れ出ていた涙をゆっくりと止めていく。
「分かりました。でも天元さんも奥様たちもたくさんの数え切れないくらいの命を救っています。私も……天元さんがいてくれなければ鬼に命を奪われていました。強く優しく……尊い天元さんたちが穏やかに幸せに過ごせることを心から祈っています!ご家族全員でいつでも遊びに来てくださいね」
ようやく笑顔を取り戻した風音に二人はホッと息を着き、天元は短くなった柔らかな金色の髪を掬い取り、俯くようにして額にそっと触れさせた。
そしてそれをキョトンと見つめる風音と額に血管を浮き上がらせた実弥に吹き出した。
「相変わらず嬢ちゃんは顔色一つ変わんねぇのに不死川は怒り狂うと。ハハッ!からかって悪かった、俺も嬢ちゃんと実弥ちゃんが幸せに過ごせる未来を祈ってる」
「テメェ……くそ、風音!部屋戻んぞ!」
「え?あ、はい!天元さん、今日はありがとうございました。ここを離れる時はお見送りさせてくださいね」
天元のからかいにご機嫌斜めになり部屋を出ようとする実弥の肩口から必死に顔を出し笑顔を向けてくれた風音に頷き返し、しばらくして天元も自室へと戻っていった。