第13章 夜闇と響鳴
鈍い音が体の内から脳へと、体の外から鼓膜へと届いた。
さすが上弦の鬼。
しかも二体のうち弱点である妹の頸を斬られ後がない男の鬼の力は凄まじく、一本や二本などと可愛い本数ではない肋が折られ風音の体に気絶するほどの痛みをもたらした。
蹴り飛ばされ地面を転がりながらもどうにか体勢を整え、鈍い音を聞いて自分を目を見開き見つめてくれている天元や炭治郎に声を張り上げる。
「折れただけです!音柱様はそこから七時の方向に十歩、炭治郎さんは三時の方向に八歩動いて!攻撃が来ます、技で防いでください!」
「嬢ちゃん……くそ、竈門!止まんな!譜面は出来上がった、攻撃を躱し次第俺に続いて技出し続けろ!」
譜面が何を指すのか先を見ている風音にも鼻のいい炭治郎にもハッキリとは分からない。
分からないが柱である天元の勝ちを確信したような表情を見れば不安など沸き起こるはずもない。
鬼を倒すことに関してはこれで何も心配することはなくなった。
……なくなったのだが風音には一つ懸念事項が残っている模様である。
(これでお二人共最低限の傷だけで済むはず……後は私なんだけど……)
「円斬旋回 飛び血鎌」
懸念事項である男の鬼の決死の技が無情にも繰り出された。
先にここから離れてもらった善逸と伊之助は問題ない。
そして下がる場所を伝えそこに身を移動させ終えた天元や炭治郎も問題ない。
しかし風音の体は安全な場所に退避できなかった。
毒に冒されただでさえ体が言うことを聞いてくれないのに、肋が複数折れた体では移動出来たとしても技を放って攻撃を防ぐなど出来るはずもないのだ。
手が吹き飛ばされるのか足が吹き飛ばされるのか……目の前に迫り来る毒を持った刃を眼前に痛みに備えて目を強く瞑ると、天元の声が風音の耳に届いた。
「不死川ーー!嬢ちゃん守ってくれ!」
建物が鬼の攻撃によって破壊される音が大半を占める中でも天元の声は不思議と風音の耳にしっかり届き、求めるように両腕を上げると懐かしい暖かさで包まれふわりと体が宙を舞った。
「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐」
浮遊感がなくなり次に鼓膜を震わせたのは絶対的な安心感をもたらしてくれる声。
瞳に映ったのは今も尚追いかけ続けている『殺』と染め入れられた白い羽織だった。