第13章 夜闇と響鳴
二体で一体と言えど苦痛などは共有されないようで、鬼花魁は苦しみだした男の鬼の助けにと動こうとするがそれは鬼化した禰豆子によって阻まれた。
その禰豆子の元へは炭治郎が駆け寄って落ち着けるために声をかけ続けているが禰豆子の鬼化はおさまる気配がない。
「炭治郎さん!……ぐっ、思い出深い唄はないですか?!禰豆子さんを押さえ付けて唄を……その間、鬼花魁は私が……ケホッ」
再び屋根の上に膝を着いた風音の腕を引っ張って、天元は暫しの間胸の中におさめて頭を撫でた。
「嬢ちゃんはじっとしててくれ。いいな?大丈夫だ、アイツらが到着したからな!」
驚くほど優しく屋根の上に横たえさせてくれた天元の姿はいつの間にか男の鬼の側まで移動しており、風音のすぐ側を黄色い閃光と鈍く鋭い閃光が走り抜けていった。
「善逸さん、伊之助さん……」
禰豆子を押さえ付けて何かの唄を口ずさむ炭治郎に変わり、二人が鬼花魁の帯の猛攻を防いでは切り裂いている。
その姿を目の当たりにした風音は上体を起こして鞄の中を漁り、解毒薬という解毒薬全てを取り出して口の中に放り込んで嚥下した。
「足手まといになりたくない。力にならなくちゃ……未来が変わってるから、まずは戦いながら先を見て……よし!善逸さん、伊之助さん!新技を試すので少し距離を!」
全身は鬼のよく分からない毒のお陰で激痛が走り、少し気を緩めれば鉄臭い液体が喉をせり上がってこようとする。
思うように力の入らない手には包帯で日輪刀を固定し、飛び上がるために足場の悪い瓦の上を全力で走った。
「嘘だろ……あの跳ねっ返りどうにかしねぇと死んじまうぞ!」
回復しつつある男の鬼の刃を二対の日輪刀で防ぎながら冷や汗を流しているが、風音が跳ねっ返り過ぎて笑いが込み上げたのか天元の口元が弓型に歪んだ。
「死にません!夙の呼吸 玖ノ型 星の入東風(いりこち)」
瓦を踏み締めて複数割りながらふわりと空へと舞い上がり、何度も体を捻っては回転して速度を増し、無数の斬撃を鬼花魁へと叩き込んで……すとんと静かに屋根の上に降り立った。
「ふぅ……夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
そして邪魔な帯を薙ぎ払った勢いそのままに日輪刀を横へと薙いで鬼花魁の頸へと刃を届かせた。