第13章 夜闇と響鳴
赤い飛沫が視界を染めたのは風音だけではない。
風音のすぐ後ろで身構えていた禰豆子の視界をも赤く染めていたのだ。
「ん……ん"ん"ーーーっ!」
悲痛な叫び声に反応した天元が崩れ落ちそうになっている風音に近寄ろうとしても、男の鬼が行く手を阻みそれは叶わなかった。
「行かせねぇからなぁあ。どうせアイツは殺せねぇんだ、お前が行っても意味ねぇだろぉ」
「お前のクソ悪ぃ目ぇかっぽじってよく見やがれ!馬鹿妹嬢ちゃんを殺す気満々だろうが!どけよ……音の呼吸 肆ノ型 鳴弦奏々!」
天元の言葉通り鬼花魁は風音の命を奪ってはいけないということを理解していたはずなのに、屋根の上で膝をつき刀で辛うじて体を支えている風音に帯をけしかけようとしている。
さすがに男の鬼もそれを良しとしていないらしく、天元の攻撃を受け止めた後に鬼花魁へと視線を動かした。
その隙をつき天元が脚を動かし風音の体を抱きかかえた瞬間、身を呈して守ってくれた少女を庇うように前に立ちはだかっていた禰豆子に異変が訪れた。
「おいおい、マジで鬼化しやがった!竈門ー!妹どうにかしやがれ!このままじゃ……」
ふわり……と天元の視界が優しい力で遮られた。
何だったのか……と確認する頃には頬に生暖かい液体が滴り落ちており、暗い中でもその何かが天元の瞳に映った。
「嘘だろ……嬢ちゃん何してんだ?!」
「だ……いじょうぶです。天元さんがいなかったら負けちゃう。夜明けまで待たずに負けてしまう。お気になさらず、動けますので」
天元の瞳に映ったのは男の鬼が武器として使用している鎌が風音の肩を貫通している光景だった。
毒があるから気を付けてほしいと天元に散々言っていたのに……どんな毒かも判明していない毒を小さな体で受けてしまったのだ。
しかし風音は痛みを感じているはずなのにそれを一切感じさせず、男の鬼を牽制するように鎌を貫通させたまま勢いよく振り返った。
「夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風!おまけに……私の血でも浴びて大人しくしてて!」
何度も刃を振るって鬼の体に傷を作り、忘れ物を置いてくなと言わんばかりに自身の血がたっぷり付着した鎌を抜き取って投げ付け、男の鬼の首元へと突き刺した。