第13章 夜闇と響鳴
百年以上生きている鬼が畳に座り込み幼子のように兄と呼ぶ男の鬼の助けを欲して涙を流す姿は風音を憤らせ、また何とも複雑な気持ちにさせる。
「うるさい!さっきから何なの?!頸斬ったり痛めつけて楽しい?!絶対許さない!」
「楽しくない。私はあんたに音柱様の邪魔をされないように足止めしてるに過ぎないから」
無駄だと思われる応酬を強制されながらも、鬼花魁の時間稼ぎに付き合って次の動きに備える。
(帯の攻撃まであと数秒……天元さんは)
チラと天元を見遣ると男の鬼の攻撃を完璧に捌きながら小さく頷き返してくれた。
体勢もいつでも帯の攻撃に対して対応できるようにしっかり整えてくれている。
自分一人ではどう頑張っても対処しきれない事柄を全て請け負ってくれている天元に心の中で礼を述べ、今の自分に出来ることをと日輪刀を構え直して未だに涙を流し睨み付けてきている鬼花魁を見据えた。
「舐めんじゃないわよ!」
その言葉を合図に鬼花魁の腰に結ばれていた帯が強度を増して勢いよく前後左右へと縦横無尽に伸び、幾つかは屋根を吹き飛ばして幾つかは風音を切り刻もうと迫り寄ってきた。
「夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳」
何度も何度も実弥に扱かれ、時には木刀を取り上げられ取り返しながら鍛えてもらった技を放ち自分に迫って来ていた帯を弾き飛ばす。
「やっぱり一筋縄じゃ切れない。今は痣も出てるんだから集中すれば切れるはず……音柱様!私は外に移動します!ここだと……」
「好きにして構わねぇよ!風の派生は外のが動きやすいんだろ?俺も外のが動きやすい、避難は粗方終わってるから気にせず派手に暴れろ!」
「ありがとうございます!はぁ……夙の呼吸 肆ノ型 飄風・高嶺颪」
帯によってズタズタにされてしまった畳を踏み締めて高く跳躍し、吹き飛ばされた屋根を飛び越えて帯を切り付けながら、隣りの建物の屋根の上に降り立った。
「派手だなぁ!隊服捲れ上がってんのはあれだが……俺も負けてられないねぇ!音の呼吸 肆ノ型 鳴弦奏々!」
合流次第風音に見せてやると言ったド派手な天元の技はしっかりと風音の目や耳に届いており、言葉通り全てに対してド派手な技に風音は思わず顔に笑みを浮かべた。