第13章 夜闇と響鳴
天元の声は聞こえているが聞いちゃいない。
これは是が非でも今し方鬼花魁の中から出てきた男の鬼からの攻撃を受けるわけにはいかなくなった。
しかし風音は天元が流し込んでもらった情報よりも遥かに先の情報を有しているはずだ。
それに加え戦闘中にその情報が変わったとしても風音は随時変わった先を自在に見ることが可能ときた……
「俺の妹を苦しめた奴……切り刻んでやりてぇなぁあ。でもお前は殺せねぇんだよなぁあ」
風音の対処に戸惑っていたとて目の前の上弦の鬼はそんなこと考慮してくれないし、もちろん大人しく待っていてはくれない。
「偶然だね、私もたくさんの人を苦しめてきたあんたたちを、切り刻んであげたいって思ってたの。しかも私は心置きなく切り刻んで頸を斬ることが出来るんだよね」
そして目の前で鬼を挑発する風音の姿。
たまに実弥と共闘することのある天元は、隣りにいる風音の憤りや悲しみを映す瞳が実弥のそれと重なって見えた。
「ハハッ!師弟揃って喧嘩っ早いなぁ!派手に行ってこい!嬢ちゃん、帯には気ぃつけろよ」
「はい!行ってまいります!」
そう言葉を発したかと思うと風音は既に鬼花魁へと斬りかかっており、男の鬼に引っつけてもらっていた頭を再び畳へと転がしていた。
泣くわ喚くわ……やかましい鬼花魁の声を耳にしながら天元も男の鬼へと斬りかかり、風音が目の前の鬼との戦闘に集中できる環境を整えた。
「……一人じゃ何も出来ないの?お兄ちゃんお兄ちゃんって。頸引っ付くんだったら自分で引っ付けたら……どうかな!」
アタシばっかり頸を斬られる。
お兄ちゃん助けて、コイツを早く殺して。
そんなことばかりを喚いているが、鬼舞辻無惨が風音の力を欲している以上殺すことは出来ないのに、そのことはすっかり頭の中から忘れ去られているようである。
そんな鬼花魁の体を斬り付け様子を伺うも、悔しそうに顔を歪めて涙を流し睨み付けてくるだけだ。
(埒が明かない……それに室内だと闘いにくいな。いっその事、頭を男の鬼から遠く離して地面に埋めてしまった方がいいんじゃ……)
「……そう上手くはいかないか。ねぇ、ずっとお兄ちゃんの助けを待ってるの?お兄ちゃんは音柱様の相手してるから余裕ないのに?」