第13章 夜闇と響鳴
「私、鬼に対して正々堂々、仁義を通して戦う必要はないって思ってるの。師範にも鬼の話聞く暇あるなら、さっさと頸斬っちまえって言われてるし」
一瞬で頸を斬られた鬼花魁は呆然としていたが、目の前で笑みをたたえながら刀に着いた血を振り払い歩み寄って憎まれ口を叩く鬼狩りを睨みつけて悪態をつく。
「このアマ!なぶり殺してやる!アンタみたいな先が見えるだけの人間なんて……っ?!」
ぼとり
と両腕が畳に転がり落ちた。
鬼と言えど痛みはあるようで体がびくりと痙攣した。
「弱っちいけど……その弱っちい人間に頸斬られて両腕も吹き飛ばされた今の気持ちを教えてもらえる?あ、やっぱりいいや。すぐに口もきけなくなると思うから」
上弦の鬼と対峙しているとは思えない笑顔のまま風音は羽織の袖をまくり日輪刀の刃をあてがう。
それを地面に頭を転がしたままの状態で見つめ続け……鬼花魁は今度は痛みではなく焦りから身体を震わせる。
「あ、やっぱり私の血が君たちにとって毒だって知ってるか。どうせすぐに中和しちゃうんだし、そんなに怖がることないよ?……今まであんたに殺された人の苦しみや無念を考えると、大した苦痛じゃないはずだから」
先ほどまでの笑顔はどこへ消え去ったのか。
余裕すら感じ取れた忌々しい笑顔はいつの間にか険しい表情へと様変わりしており、自分の腕なはずなのになんの躊躇いもなく切り裂いて血を流した。
「奪われる前に奪って何が悪いのよ!私は私から何も奪わせない!女将……あの女将を助けたのもアンタだったんだね?!忌々しい……八つ裂きにしてやる!」
腕は吹き飛ばされ頭は畳に転がした状態であっても、目の前にいるのは曲がりなしにも上弦の鬼である。
その気になれば腕もすぐに回復させ反撃することも可能なはずだ。
そうなれば一般剣士である風音では相手をするのは荷が重いので、斬れて断面が見えている頸の上へと計画通りに腕をかざした。
「別にあんたの話しを否定するつもりも肯定するつもりもない。ただ不愉快だからちょっと黙ってて?悲鳴も聞きたくないから、血を流し込まれても我慢してくれると嬉しいのだけど」
目を見開き身体を震わせる鬼花魁になんの容赦をすることもなく、風音はぽたぽたと断面に血を垂らしては流し込んでいった。