第13章 夜闇と響鳴
風音が疑問を抱きながら例の部屋に戻ると、布団の中には布団で象られた人型のものがあり、その布団の中からひっそりと顔を覗かせていた金色の髪は付け髪に施され鎮座していた。
しかもご丁寧にも天元からのお手紙も添えられており、風音は心の中で大いに感謝した。
『店の者に説明すんの面倒だろ?
祭りの神である天元様が
困るであろう嬢ちゃんのためにこさえた贈り物だ!
派手に喜び崇め奉って付けとけよ!』
風音は実弥以外からの初めてのお手紙を読み返して嬉しそうに封筒の中にしまった。
「お陰様でお店の方に不思議がられることがなかった。女将さんのことは騒ぎになってるけれど……今から旦那さんにお伝えすれば大丈夫だよね?」
突如として人一人が失踪した店内は開店準備で慌ただしいのに、今も尚落ち着かない雰囲気が漂っているので風音は小さく息を零して窓の外を見遣る。
そろそろ天元の召集がかけられる夕刻が迫りつつあり、太陽は橙に色を変えていた。
「えっと……天元さんの忍鼠さん、私の隊服と日輪刀をお願いします」
立ち上がって天井に向けて声をかけると天井の一部がカタリと開き、そこから天元のキラキラ光る石が連なっている額当てと同じ額当てをした鼠が顔を覗かせた。
そして風音が下から腕を差し出すと頷き返し、小さな体の筋肉をどうすればあれほどに鍛えられるのだろうと不思議に思える腕や脚を動かして、望むものを全て渡してくれた。
「保管、運搬ありがとうございます。今度天元さんと一緒にお家に遊びに来てね?美味しいものを用意しておきますから」
しかも風音の言葉を全て正確に理解している。
そんな不思議で何となく愛着の湧く忍鼠たちに手を振ると、忍鼠たちは嬉しそうに一声声を上げて……きちんと天井の一部を元に戻してどこかへと駆けていった。
その音を確認してから着ている着物を脱ぎ素早く隊服へと着替える。
もう日輪刀も差していて構わないと天元からのお声があったので、羽織まで羽織って着物を畳み日輪刀を腰に差して準備を完了させた。
「着替えてからまずは召集がかけられる前に旦那さんに女将さんのことを報告。時間的には丁度いいはず」
あと三十分もしないうちに一人で上弦の鬼と対峙する。
その事実に気を引き締め直し、二日間世話になった部屋へ頭を下げた。