第13章 夜闇と響鳴
「おい、爽籟。俺は明日の任務地向かう。お前は戻って休んでろ」
風音が結局遊郭への潜入に成功して男性客の意識を奪うに至ったことを知らない実弥は、怪我一つなく早々に任務を終わらせていた。
しかしいつもなら任務を終えると多少なりと気を緩めるのに、今日に限っては戦闘時の険しい雰囲気を保ったまま、表情もそれに伴って険しいままだ。
その理由を聞かずとも分かっている爽籟は空から実弥の肩に降り立ち首を左右に振った。
「俺モ行ク。明日、風音ノ所ニ行クツモリダロ?ダカラ今カラ鬼ヲ……」
「悪ィかよ。相手が上弦の鬼なら人手は多い方がいいだろ。アイツの髪の一本すら鬼に触れさせたくねェんだ。宇髄がいると言えどそこまで気ィまわしてる余裕ねェだろうからなァ」
髪に触れられるどころか平手打ちを既にくらい、自分で切ったものの鬼の目くらましのために髪を切り落としてしまっている。
今も険しい雰囲気を保たせたままであるが、今の風音の……頬が腫れ肩につくほどまでに短くなった姿を見てその理由を知れば、目が血走り顔に血管が浮き上がるのは間違いないはずだ。
そんなことになっているとはもちろん知らない実弥は、ひとまず気持ちを落ち着かせるために息をついてから夜道を走り出した。
「それにあの痣……出来るだけ出させたくねェんだ。アイツはああ言ってたが、ただの感覚で寿命が縮まってない保証なんてないからなァ。塵屑野郎は俺と宇髄でぶっ殺してやる」
実弥の速度をものともせず隣りを並走飛行する爽籟は、何も答えず汽車での任務の後に風音の腕に出ていた薄緑色の痣らしくない痣を思い浮かべて漆黒の瞳を僅かに細める。
その痣の影響で二十五までしか生きられないかもしれないと聞かされても尚、笑顔で日々生きている風音を見ていると心が痛む……と楓とこっそり話していたな……と思い出しながら。
「急ぐぞ、今からならまだ夜明けまでに糞鬼の頸斬れるはずだァ!爽籟、風音のためにしっかり着いてこいよ!」
「任セロ!実弥ノ肩ト同ジクライ風音ノ肩ハ乗リヤスイ気ニ入リノ場所ダカラナ!」
思い思いのことを胸に一人と一羽は更に速度を上げて次なる……明日赴く予定だった任務地へと急いだ。