第13章 夜闇と響鳴
知るはずのない切り落とした髪の所在を知っていた天元に、今度は風音が驚き体をビクつかせた。
「どうしてご存知なんですか?!部屋の中の人が……何か言ってました?」
「いや、嬢ちゃんの言葉聞いてから鬼の目をかいくぐって、嬢ちゃんがいた部屋の中改めたんだよ。何か繊維物切る音聞こえたような気がしたんだが……気のせいじゃなかったのね」
悲しげにひそめられた目が唐突に風音の中で後悔を湧き起こさせ、今の天元の表情と実弥の表情が重なって見え胸に小さな痛みをもたらした。
しかし髪を切り落とした判断が間違ってはいなかったと思う気持ちもある。
「お手間をかけさせてしまって申し訳ございませんでした。この通り髪は切ってしまったので短くなりましたが、明日の鬼狩りには全く影響を及ぼしません。それに髪はまた伸びます、だから……いいんです」
短くなってしまった髪が勿体ないと言わんばかりに眉を下げて毛先に触れる天元に笑みを向け言葉を続ける。
「私は京極屋に戻ります。あのお客さんが目を覚ましてもいけませんので。明日の夕刻、音柱様の招集にすぐ応えられるよう心と体の準備もしておきますね」
「ああ!あの客なら花街の外にほっぽり出しといてやったぜ?金はもう店に払ってたみたいだからな!払った金以上のことを……何より嬢ちゃんに手ぇ出そうとした奴にはこれくらいしてもバチ当たんねぇと思わないか?」
風音とて部屋に戻って男性客が目を覚ました時に……意識を奪ったことや髪のことをどう説明しようかと悩んでいた。
騒ぎ出されたらどうしようかと思っていたので天元の計らいは有難い。
有難いのだが……
「大丈夫……でしょうか?目を覚ましてお店に戻ってきたりとか……」
心配げに眉を下げた風音に天元は満面の笑みで一言。
「心配ねぇ!あの客の手に文を握らせてやったからな!あれで店に戻ってくるなら、その度胸に賞賛送ってもう一回花街の外に放り出してやるよ!」
ほんの少し恐怖を抱き冷や汗をかく風音がお手紙の内容を聞いても天元は答えてくれず、気にすんなと店へ向かうように促されてしまった。
「気になる……実弥君ならどんな内容か当ててくれるかな?」
天元の行動は実弥を想ってしたことなので、きっと実弥に聞けば正解に近い答えをくれるだろう。