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涼風の残響【鬼滅の刃】

第13章 夜闇と響鳴


一瞬躊躇った。
実弥が綺麗だと言って優しく梳いてくれる髪を切り落とすことに……

だが鬼に自分を捜索された際、そこに自分がいないと分かれば正体がわれてしまう。

「実弥君、ごめんね」

バサリと肩口から髪を切り落とし、布団の中から流れ出るように丁寧におさめた。

自分がこの男性の布団の中で眠っているように見えることを確認すると、風音は一気に廊下をすり抜けて階段を急いで駆け下り手拭いを頭に被る。

「泥棒みたい……今はなんでもいいや。鬼にさえバレなければ未来は変わらないはず」

幸運なことに店の入口の前には誰もいない。
客もあと数人となったことで店の者は各々休み出したのかもしれない。

「女将さんは入口付近の上空……あと十秒」

この時ばかりは勝手に流れ込んできてくれる情報が有難く思えた。
お陰様で女将が落下させられてくる頃合が正確に分かるから……

「女将さんを助けたら藤の花の家紋の家に……よし!」

自分で自分に合図を送って店の出入り口を飛び出すと、足を踏ん張って高く跳躍し今し方鬼花魁によって上空から落とされた女将の体を抱きとめる。

「アンタ誰?!鬼殺隊が紛れ込んでたっていうの?!」

驚き声を発せない女将に代わり鬼花魁が金切り声で問い掛けてくるが、答えてしまっては変装をして泣く泣く髪を切り落としたことが無意味になってしまう。

「天元さん、藤の花の家紋の家に向かいます」

蚊の鳴くような小さな声で言葉を残し、夜明けが近付いているはずなのに暗いままな花街の道を全力で駆けていった。

そうして鬼花魁を巻くために何度も曲がり角を曲がって蛇行走行を続け、ようやく花街の入口へと辿り着く。

「あんた……もしかして」

風音の名前を口にしようとした女将を抱きすくめ、半強制的に言葉を中断させた。

「事情は後で話します。今は何も聞かずにいてください。舌を噛んでは大変ですので……行きますよ?」

脚の速さに覚えのある風音であっても、筋力にはそれほど自信がない。
人一人の重さに腕が限界を迎える前に花街を飛び出し、天元へと告げた藤の花の家紋の家へと急いだ。
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