第13章 夜闇と響鳴
好都合なことに静まり返った室内では廊下を挟んだ斜め向かいの部屋でも、意識を集中させれば声が聞こえてきた。
そしてその話し声を聞いて風音の表情が徐々に影を落としていく。
(女将さんの声……禿の子たちや私への折檻を窘めてる。どうしよう、このままだと女将さんが殺されてしまう!でも天元さんに見せてもらった未来では戦闘は早まっていなかった……何か鬼にバレずに助け出す方法があるはず)
何か使えるものはないかと部屋の中を見渡すと、さすが遊郭の物置として使われている部屋なだけある。
使い古された着物や手拭い、腰紐などが一つの籠の中に乱雑に詰め込まれていた。
「よし、あんまり時間はないから移動しつつ……善逸さん、私は少しお店を離れます。鬼にバレないように注意はしますが、鬼殺隊に対して警戒を強められると思うので用心して下さい」
耳が特筆していい善逸ならば今の声も聞こえているはず。
そう信じて慎重に物音をたてないように必要なものを全て腕に抱え、襖を開けて階段へと急ぐ。
しかしこんな時に限って邪魔が入るというもの。
急ぎ足で歩きながら着物を羽織っている風音は誰かに腕を掴まれた。
「君もここの遊女だろ?……顔に傷はあるがまぁいいや、こっちで相手してくれよ」
店の遊女か下働きの者かと思って笑顔で振り返ったのに、風音の腕を掴んだのはこの店に来ていた男性客だった。
「私は下働きの者なのでお相手を務めることは出来ません。あ!構いませんよ、そちらのお部屋でよろしいですか?」
何を考えているのか…… 風音はこともあろうか男性客が引っ張り入れようとしていた部屋へと自ら身を滑り込ませ、腕に触れられている不快感を隠して布団の前に辿り着く。
「綺麗な髪だなぁ、一回異国の女とぉ?!」
不埒な言葉を発する前に男性客は風音に頚椎を優しく的確に手刀を叩き込まれ、布団の上に倒れ込んでしまった。
「私は実弥君じゃないと嫌なの。ごめんね、私がここにいるように見せかけさせてもらいます」
完全に意識を手放した男性客を布団の中へ急いで押し込め、懐に忍ばせていた短刀を取り出して……今は緩く後ろで結んでいた長い髪にあてがう。