第13章 夜闇と響鳴
風音は立ち止まり善逸の恐怖がほんの少しでも和らぐようにと手をキュッと握り返し、涙が止まるようにと笑顔を向けた。
「善逸さんはこのお店の全体の様子を静かなお部屋で確認してください。耳が特筆して良くない私には出来ないことだからお願いしたい。万が一鬼が動き出したら私よりもお店の人たちの誘導を」
呆然と風音の言葉を聞いていた善逸は我に返ったように手を握ったまま来た道を戻り、鬼花魁の部屋から少し離れた部屋の前で止まった。
「あんまり二人で近くにいすぎたら鬼にバレちゃうかもしれない……だから俺はここで店の音を聞く。風音ちゃん、でっかい柱から君は跳ねっ返りな性格だって聞いてるから怪我だけはしないでね?」
鬼の近くに赴く風音と少しでも近い場所に……と恐怖をおして選んでくれたことに笑顔になったのも束の間、まさかの天元からの性格紹介に笑顔をピキリと固まらせた。
「跳ねっ返り……うん、それは私の代名詞なのかもしれない。心配してくれてありがとう。このお店の中にいる限り善逸さんも安全ではありません、どうかお気を付けて」
それでもいつまでも固まったままでは居られないので、実弥から広がったであろう跳ねっ返りという言葉を受け入れて善逸の手を離した。
「うん……安全じゃないのはすっごく嫌だけど。どうにか頑張ってみる……」
とぼとぼと部屋の襖を開けて中へと身を隠していく善逸に頭を下げると、風音は更に来た道を戻り鬼のいる部屋の近くの部屋へと潜り込む。
(四角い容器の傷薬、念の為に用意しておかないと。……はぁ、自分で自分の先を見られたらいいのに。鬼の先は見られるのにどうして自分の先は見れないんだろ?)
と今の風音ではどうにもならないことを考えながら辺りの様子を探る。
鬼のいる部屋より更に奥にある物置部屋のような部屋の中は、耳が痛くなるほどに静かで辺りの様子を探るのにちょうどいい。
(窓もあるし何かあれば傷薬を上に向かって投げれば天元さんにもすぐに知らせられる。……えっと、鬼はまだ部屋の中……にいる。あれ?もう一人……人の気配?!)