第13章 夜闇と響鳴
「なぁ、嬢ちゃんは先を変えるために何回泣いた?煉獄や不死川、一般剣士や今この俺との任務で何回泣いてんだ?」
質問の意図が分からず風音は首を傾げる。
何回……と問われても数えていなかったので分からない。それに涙を流すほど凄惨なものは少なかったはずだ。
「あまり……覚えていません。ただそんなに多くはなかったかと……天元さん、どうしてそんなことを?」
「そんなことじゃねぇだろ?俺が瀕死なってるとこ見るだけで泣いちまう嬢ちゃんだぜ?いつか崩れちまうんじゃないかって気が気じゃないのよ。崩れて自分の命投げ出してまで先を見続けんじゃねぇかってな」
今の天元の表情は何度か見た事があった。
天元ではなく実弥で……だが。
「ご心配ばかりかけてしまい申し訳ございません。でも大丈夫です、私は実弥君とおじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒にいようねって約束しているので、その約束を破るつもりないんです。……例えばですけど、天元さんや実弥君、杏寿郎さんが私と同じ力を持っていたら……私と同じことをされるのではと思います」
先を見ていないはずなのに、先を見ている時と同じような澄んだ瞳が天元を映す。
それが何とも逸らすことが憚られるもので、天元は見つめ続けたまま口を開いた。
「そりゃあ……俺たちは柱だからな。それなりに死線をくぐり抜けて凄惨な光景も悲しいかな耐性がある。だが嬢ちゃんは違うだろ?」
「天元さん、私は柱を含め隊士の方々と同じ世界を見ることを自分で選んで鬼殺隊に入りました。皆さんが自身の持てる力を使って鬼と戦うのならば、私も持てる力を使って戦わなきゃ誰にも顔向け出来なくなっちゃう。だから、ね?先を見せてくださいませ」
押しが強い。
想像以上、実弥や杏寿郎から聞かされた以上に感じる押しの強さに天元は溜め息を零して項垂れた。
「嬢ちゃんみたいな剣士が多けりゃ剣士の質云々で悩むことなかったんだろうなぁ……立派だよ、剣士として。俺の負けだ、先を見てくれ。だがそれで傷を負ったら戦わせねぇぞ」
「まだまだ未熟者ですよ?よく実弥君に叱られますし……それはそうとしてさっそく見させていただきます!そう言えば杏寿郎さんにも汽車での任務の際に天元さんと同じことを言われました。傷を負えば戦わせないって」
実弥を始め柱たちの言葉は風音を成長させている……はずである。