第13章 夜闇と響鳴
こうして無事に風音は外に出ることが出来た。
買い出しに行くというのも天元と落ち合うための方便で、女将に少しばかりの罪悪感を抱きながら京極屋を後にした。
そうして数分後、お茶っ葉を携えた天元と横路地で再会を果たす……数時間ぶりにだが。
「嬢ちゃん……頬腫れてんじゃねぇか。鬼ってのはやっぱり派手に醜い生き物だな……大丈夫か?」
怒りで手に持ったお茶っ葉の袋がひしゃげている。
そんな天元の怒りを少しでもおさめようと、風音はニコリと笑いお茶っ葉を受け取った。
「こんなの私のお薬を塗っておけば数時間でおさまりますよ。それより音柱様、鬼花魁に平手打ちをされた時に先を見たのですけど、二日後の夕暮れ前には奥様たちの救出を敢行しましょう。奥様たちは二日後も無事なんですけど、他の方が喰べられてしまいます……数時間鬼兄妹との戦闘が早まるとお考え下さい」
早口で捲し立てる風音を落ち着けさせるため、天元は自らの怒りを内に収めて頭をぽんと撫でる。
「落ち着け、鬼は俺たちを監視してねぇから慌てる必要はない。嬢ちゃんの情報はほぼ的確だから本当に助かるわ!よし、分かった。二日後の夕刻前に嬢ちゃん含め全員呼び戻す。で、竈門たちは戦闘に参加させずに煉獄の元に返す。派手な戦闘に巻き込むわけにはいかねぇからな!」
どうして柱というのはこんなにも優しいのだろう。
少しでも戦力は多い方がいいに決まっているのに、後輩剣士たちを守ろうとしてくれる。
数ヶ月前に先を見た杏寿郎もそうだった。
後輩たちの盾となって上弦の鬼と戦い……壮絶な最期を迎えていた。
結果的に風音が先を見てその凄惨な光景は回避させられたが、今でも風音の頭の中に流れてきた杏寿郎の最期の言葉は忘れることさえ出来ていない。
「そうですか……それならばまた音柱様の先を見せていただく他ありませんね。私は鬼を倒すまで共に戦います。最善の道を選べるよう、尽力させて下さいね」
悲しい先など見たいと思うはずもないが、枝分かれして無数に広がり続ける先を幾つも見なければ望む未来を迎えられない。
現実で多くの人が悲しみに暮れるくらいならば、仮想とまではいかないものの現実世界でない頭の中に流れてくる悲しい光景を受け入れる方が遥かにいい……
例え何度も大切な人たちが命を失う瞬間を見ることになっても。