第13章 夜闇と響鳴
「誰にも秘密ですよ?こっそり持ってきていた飴ちゃんです。寝る前に食べるのは良くないかもしれませんが、誰もいないところで食べてください。お掃除、手伝っていただいてありがとうございました」
今まで菓子を貰ったことなどなかったのだろう。
禿たちは涙を目に浮かべながら小さく頷き紙の包みを襟元に忍ばせた。
「ありがとう!あの……花魁は怒ると怖いから気を付けてください」
「口答えしないで謝れば早く怒りはおさまります」
禿たちからの蕨姫花魁の評価はすこぶる悪いようだ。
日々八つ当たりで激しい折檻を受けていれば仕方がないのだろうが……
しかしこんなことを花魁に聞かれでもすればそれこそ命が危うくなるほどの折檻が待ち受けるはずなので、風音は禿たちの頭を撫でてお稽古に向かうよう背中を押して促してやる。
「大丈夫ですよ。優しい貴女たちの笑顔を思い浮かべれば何だって耐えられますから。さぁ、行ってらっしゃい」
もう少し話してみたい……そんな名残惜しそうな顔で何度か振り返る禿たちに笑顔で手を振り見送ると、風音は深呼吸を一つ落として気持ちを落ち着けた。
(蕨姫花魁……もうすぐ帰ってくる。その前にあの子たちをここから離れさせてあげられてよかった。小さな子が泣き叫ぶ所なんて見たくないもん)
「アンタ誰?なに人の部屋の中に勝手に入ってんだい?」
背後から凄まじい殺気を感じた。
声音も何かを探るようなものを感じ取れたので、怪しまれないようすかさず床に正座をして三つ指をついた。
「申し訳ございません。本日から京極屋の下働きとして雇い入れていただきました風音と申します。女将さんの指示で蕨姫花魁のお部屋のお掃除をしておりました。今し方それも終わりましたので失礼致します」
あまり顔を見られないよう頭を下げたまま部屋を出たが、手を掴まれいきなり頬に平手打ちをくらわされた。
何がいけなかったのか分からない。
分からないが念の為に受け身を取らず禿たちの助言を守り、口答え一つせず深く頭を下げ続けた。
「なんだい、その顔の醜い傷は?私は醜いものが大嫌いなんだ。さっさと私の前から姿を消しとくれ」
酷い言い草だ。
傷が醜いからという理由だけで強烈な平手打ちを仕掛けてきたらしい。