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涼風の残響【鬼滅の刃】

第1章 木枯らし


「やっと感情出しやがったな!もっと泣き喚いて足掻いてくれた方が俺は楽しめるが……まぁいい。この世とお別れだ、せいぜいあの世で俺の花嫁たちと楽しくやって……」

喉を鳴らし笑いながら少女の首元に牙を近付ける。
それが到達する前に着物に隠していた木の棒に手を持っていくが、突如として外へと続く障子が暴風によって跡形もなく消え去り、気が付けば少女は見知らぬ温かな何かに抱えあげられていた。

「あの世に行くのはてめぇだァ……さっさと死に腐れ!風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!」

何が起こって何に抱えあげられているのか分からない状況下で、一瞬にして景色が移ろい変わり気が付けば暴風によるものか……化け物の首が畳の上を転がっていた。

「胸糞悪ィ。女子供に手ぇ出すてめぇみたいな鬼が何より胸糞悪ィ!さっさと消えろ、塵屑野郎」

聞いたこともない悪態を吐き散らす自分を抱えているものを見上げると、想像していた険しい表情をしている者の姿はなく、吊り目気味の目尻を心配げに下げた灰色の髪に大きな傷痕の残る青年の顔があった。

「間一髪だったなァ。怪我してねぇか?家まで送ってってやるから案内してくれ」

優しい声音と同じような優しい動作で青年は少女の体を床へと下ろしてやった。

「あ……はい!でも……」

助けてもらったことは有難いが、生贄として化け物に捧げられた少女に帰る場所などない。
しかしそれを言ったとしても目の前の青年を困らせるだけだと思い直し、口に出そうとした言葉を飲み込んで違う言葉を紡いだ。

「助けていただきありがとうございます。お陰様で無傷でお家に帰れそうです。お礼らしいお礼は出来ないけれど、嫌でなければこれを」

そう言って少女は結い上げられた髪に手を伸ばし、飾りとして付けられた簪を抜き取って青年の前に差し出すも、それは温かな手で押し戻されてきてしまった。

「礼なんていらねェ。鬼を滅するのが俺の役目なんでなァ。ほら、親が心配してんだろ。さっさと行くぞォ」

「いいえ!そこまでしていただく訳にはいきません。ここらは庭のような場所ですし、木の棒も持っているので1人で大丈夫です」

そもそも少女に帰る家はあれど帰る場所などもうありはしないので、送り届けてもらうことは出来ない。
木の棒が夜の山でどれほど役に立つか分からないが、どうにかなるだろうと思い直し自分の行く先を考え始めた。
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