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涼風の残響【鬼滅の刃】

第1章 木枯らし


(どこにも手なんてないのに!こんな変な力持ってる相手に勝てるの?)

驚き目を見開いたのも束の間、次の瞬間には焦りながらも木の棒の所在を確認して、思い遣りの欠片もない目に見えぬ力に身を委ねた。

そして一つの部屋の前に引き摺られるようにして到着すると、障子が乱暴に開かれ……そこで突然目に見えぬ力がなくなり少女の体が畳の上に投げ出される。

「今度の嫁……生贄はお前か。こっちへ来い、俺を待たせるな」

若者とも老人とも取れる不気味な声に反応してそちらへ少女が顔を向けると、絶望が表情だけでなく体にまで広がり固まった。

少女の少し先にいるこの屋敷の住人……男たちから聞かされた神と呼ばれるものは明らかに神などではなく、禍々しい化け物に他ならなかったからだ。

(生贄……先に捧げられた女の人達は?!)

焦ったとて目の前の状況が変わるわけもなく、何か打開策はないものかと考えを巡らせながら、少女は厭な笑みを浮かべている化け物の言う通りゆっくりと立ち上がって歩み寄って行く。

近くで見れば見るほど顔を顰めたくなるほどの化け物に違いなく、耳元まで裂けた口からは鋭い牙が見えており瞳孔は猫のように縦に割れていた。

「あいつらから聞いた話によるとお前、村で除け者にされてたらしいなぁ?」

大きなお世話としか受け取れない言葉に不快感を示すこともなく、少女は少し乱れた綺麗な着物を引きずり歩きながら答える。

「それに関して……特に悲しいと思ったことはありません」

恐怖を滲ませた震えた声音に化け物はニヤリと笑い、近くに来た少女の手首を掴んで自分の眼前まで引き寄せた。

「必要とされないまま生贄に差し出された今の気分を教えろよ、必要とされないままもうすぐそこの奴らと同じ姿にされる気分を」

視線で促されてそちらに顔を向けると、そこにはまるで瓦礫かのように乱雑に積み重ねられた白骨と化した亡骸があった。

(そんな……酷い。私も食べられるの?!……あ、れ……どうして?!)

何に対して戸惑っているのか本人にしか分からないが、現状が想像していたものと違ったようで顔には絶望が塗り重ねられ酷く沈んでいる。
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