第12章 紋様と花
大急ぎで準備をするものはこれと言ってない。
隊服と羽織は鍛錬の時から着用しているし、いつも通りのパンパンに膨れ上がった鞄と日輪刀は自室から居間へと移動済みだからだ。
「いいか?店の奴ら以外にホイホイついて行くな、声掛けられても仕事あるっつって躱せ。あと宇髄の先を見ることは構わねェが、煉獄の時みたいに無茶すんなァ。今度は胡蝶に診てもらう時間ねェからな。後は……」
天元が到着するまで風音は実弥から永遠と注意事項を述べられている。
どちらかというと任務に関することよりも店での男客に対する注意事項だが……
「はい!いつもたくさん心配してくれてありがとう。大丈夫、ちゃんと男の人は対処するから。実弥君、今回の任務は潜入から始まるみたいだから今までみたいにすぐには帰ってこられない。だから……その……」
視線を手元に落として恥ずかしそうに縮こまる風音が何を言おうとしているのか実弥は何となく察している。
しかしそれを自分から促すのではなく、花街と言う特殊な街へと任務に赴く風音から直接願って欲しかった。
(抱きしてめくれとか接吻とか……ねだってくんだろうなァ。こっちとしてはもっとしてやりてェけど)
なんて事を考えながら静かに待つこと数分。
そろそろ促してやった方がいいのか?と思い始めた実弥の体に小さな衝撃と暖かさが広がった。
胡座をかいて座っている実弥の脚の上に風音がちょこんと腰を下ろし、抱き着いて胸元に顔をうずめてきたからだ。
それを拒むはずもなく背中に腕を回して抱き寄せ柔らかな髪に頬を当てる。
「長ぇなァ。普段は恥ずかしがらずに抱き着いて来るくせに……気を付けて行ってこい。待っててやるから」
「うん、頑張ってくる。頑張って生きて帰ってくるから……口付けして痕をつけてほしい。お願い」
寂しそうに瞳を揺らす風音に笑みを向け、返事をするまでもなく風音にとって切実な願いを叶えてやった。
口付けをしながら隊服の第一釦を外し、袖のない隊服の肩口部分を摘んで鎖骨が見える位置までずらす。
こうした事にはまだ免疫のない風音は実弥の隊服を握り締めながらも体はフラフラと不安定に揺らしている。