第12章 紋様と花
「わわ、実弥さん、どうしたの?」
しっかりと抱きかかえてもらっているものの突然の浮遊感に驚いた風音は、実弥の浴衣の襟元をキュッと握り締めて柔らかな雰囲気を醸し出している顔を見上げる。
するとやはり柔らかな笑みを浮かべている実弥の顔があり、つられて風音も笑みを深めて胸元に顔を埋めた。
「お前の願い叶えんなら修練場行かなきゃなァ。俺も玖ノ型、完成したの見てみてェし鍛錬始めんぞ。血反吐吐く前に甘やかせてやるよ」
「嬉しい!血反吐は怖いけど甘やかせてもらえるの大好き。あの……実弥さんにもう一つお願いがあるのだけど」
遠慮気味に見上げてくる風音の願いなど叶えてやるしか実弥に選択肢はない……
「しゃあねェなァ、叶えてやるから言ってみろ」
「うん!お名前、実弥ちゃんって呼んでいい?」
叶えると言った手前怒鳴りつけることが出来ず、風音を抱え上げている手を僅かに震わせた。
「宇髄……今度会ったらぶん殴ってやる。はァ、その呼び方はどうかと思わねェか?それなら呼び捨てにすりゃあいいだろ」
「んーー……年上の男の人を呼び捨てには出来ないよ。じゃあ、実弥君だったらいい?もっと実弥さんと距離縮めたいなぁって……」
甘やかせた結果なのか……まさか呼び方について願いを言われるなど思いもしなかったが、あまりにも小さな願いを無下にするなんて出来るはずもない。
「……小せぇ上に可愛い願い言ってくれんなァ。もうお前の好きに呼んで構わねェよ。ほら、そろそろ鍛錬行くぞ。部屋まで運んでやるから着替えて居間に戻って来い」
「本当?!えっと、じゃあ……実弥君。お部屋までお願いします。ちゃちゃっと着替えて待ってるからね」
嬉しそうに満面の笑みで首元へと腕を回ししがみついて来た風音の頭に頬を擦り寄せ、実弥は居間を出て廊下を歩き出した。
「てか韋駄天台風みてぇに飛び上がんなら、キュロットやめて俺と一緒の隊服にしたらどうだァ?お前が技出す度にハラハラしちまう」
「ん?そうなの?お揃いかぁ……いいね!今度隠の縫製係の人にお願いしてみる!」
実弥の心配事を減らすことに繋がる風音の願いを聞き入れるかは縫製係次第である。